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『普通クリスマスプレゼントにヘルシーな油の詰め合わせ贈らねぇっしょ!? 夏の浮かれたご挨拶じゃねぇってのにクーにゃんガチで吟味して決めてこれはのばちクソウケる大草原不可避ゲラゲラゲラ!』
「え、ええと、ズーズィ? 早口でよく聞き取れないのだが……いい油が届いてよかったのかい?」
『うんうんよかった! 迷走して行き着いたのが油ってゆークーにゃんのコミュ障思考回路わかるから朝イチずーっと爆笑してるしこのネタで今からクーにゃん弄りに行くわ! あのローテンションリアクションつまらん芸人クーにゃんの弱点こと羞恥心がネジ切れるまで弄るかんね!』
「ん? んん、遊びに来るということかい? 大歓迎である!」
『いや歓迎しちゃったよこのポンコツ悪魔クーにゃん泣いてそう腹痛い』
泣いてそうというか。
泣きそうというか。
「ナス、一回切る。俺が無事にお前んちに行けるように祈っててくれ」
『? りょ』
九蔵はヒク、と口角を引きつらせて、澄央との通話を切った。
ゲラゲラとお腹を抱えて笑っているのだろうズーズィの様子が、漏れ出る声だけでよくわかる。
ニューイはズーズィがなぜこんなに笑って上機嫌なのか理解できていないようだ。「私を虐める前にご機嫌なズーズィは珍しいね」と言い、ニコニコしていた。
そうだろうとも。
これからズーズィは九蔵を虐めに行くのでご機嫌なのだ。とんだブラックサンタクロースである。
「けれどまだ朝ご飯を食べていないから、もう少しあとでもいいかい? 九蔵は真木名 澄央のうちにハムステーキを作りに行くそうだ」
『はー? 激アツ展開じゃんボクも行くわ。あ、じゃあこの油持っていくからコーンクリームコロッケよろり〜ん! 揚げ物フェスろ! ヘルシーだし! 知らんけど!』
「よろりん? うむ、確かに揚げ物は熱いから激アツだね!」
『おじいちゃんわかんないならクーにゃんに伝言しといて笑い死ぬ』
最後の最後まで笑い転げていたズーズィとの通話がようやく終わった。
ニコニコのニューイが九蔵に近づき、ナチュラルにヒョイと抱きかかえる。
「なんっ、……で、抱きますか」
「服を着なければ。昨晩九蔵の意識がないうちに私が九蔵の中も外も綺麗にしておいたから、シャワーは大丈夫だよ」
「いや、抱き上げる必要性は」
「私が九蔵を抱き上げたかったのである」
「そうですか」
嬉しげな子犬スマイルでそう言われると、九蔵は文句が言えない。
九蔵を抱いたままウキウキとクローゼットに歩み寄り、ウキウキ過ぎて取手をバキッ! ともぐニューイ。
「……こんな私だが、来年もまたみんなでクリスマスパーティーを楽しみたいと、願ってもいいかい?」
ニューイはしょんもりともげた取手を持って、上目遣いに九蔵を伺う。
パーフェクトイケメンがパンツ一枚で取手を手に、そんなことを言う光景。
おかしなギャップにやられた九蔵は思わず「あはっ」と吹き出し、ニューイの頭をワシャワシャとなでた。
「っ! かっかわ……っ」
「はは、うん。俺も、あんなこと言ってたけどすっげー楽しかったんだ。二人がいいって言ったら、来年もみんなでクリパしようぜ」
わっしゃわっしゃ。
もっしゃもっしゃ。
滅多に満面の笑みなんて浮かべない九蔵の素マイルにやられたニューイに気づかず、真っ赤なニューイの頭をなでる。
満足するまでなでまわしてから、九蔵はニューイの頬を両手で包んだ。
そっと顔をあげさせる。
眩しい顔だ。愛おしい。なでられていないのに勝手に照れて、頬が熱くなる。
「でも、夜はできれば……二人がいいです」
九蔵がニマ、と下手くそな作り笑いで照れくささを誤魔化すと、ニューイはキョトンと目を丸くして、すぐにユルリと微笑んだ。
「私も昨日キミを抱いている時、同じ提案をしようと思っていたのだよ」
──だって、一時間じゃ足りません。
人間も悪魔も一緒くたの愉快なクリスマスは、ホットに過ぎていくのであった。
第五話 了
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