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第六話 敗北せよ悪魔ども!

「ニューイは、王がこりごり(・・・・)らしい」  悪魔城の一室にて。  玉座に座る悪魔王は、盛大なため息を吐いた。  数が少ない悪魔に見合わない広大な悪魔の世界の地方管理者をニューイにさせようとしたのだが、断られてしまったからだ。  こうなると人員が足りない。  各地方を管理する悪魔は〝王〟だと決まっている。  王は滅多に生まれなかった。悪魔は力の強さで序列が決まっているもののそれほど大差なく変動も激しいが、王だけは別格なのだ。  少数であり悪魔王の次に力の強い王だからこそ、悪事を美とする悪魔たちに文句を言わせず土地を管理できる。  しかし広がったり狭まったりと自由に動く悪魔の世界の土地は、現在のびのびと拡大中。  既存の王たちはもうほとんどが土地を受け持っている。  土地が増えても管理者がいない。  どうしたものかと考えた悪魔王が目をつけたのが、ニューイだった。  悪魔にあるまじき平和主義なものの、実力は一応ランク王だ。問題なかろう。  そう思ってクリスマスパーティーでその話をした結果、それはもう全力で丁重にお断りされてしまい今に至るのである。  しばらく屋敷に篭もりズーズィ以外とは音信不通を貫いていたくせに、出てきたと思えばあの様子。  人間の世界へ出向いていたニューイが人間たちをパーティーに招待したとあって期待したのだが、あてが外れた。 「クゾウと共に、人間の世界にいたいのだと……アレは手足をもごうが、頭蓋のみで地上にしがみつくだろうな……」  いやいやとべそをかいて地面を噛むニューイを簡単に想像し、悪魔王は呆れたため息を重ねる。  そんな悪魔王の目の前にいた二人の悪魔が、「悪魔王様」と声をかけた。 「悪魔王様の命令を聞かない落ちこぼれは、処分いたしましょう。僭越ながら、即刻存在を消滅させてしまえばよろしかったかと」 「そうよねぇ〜。その人間が死ぬまで待つのはめんどうよぉ。無理矢理管理させたほうが早いわ。ね? 悪魔王様」 「ドゥレド。キューヌ」  ドゥレド、と呼ばれたのは、背や手足に鱗を纏う巨大な黒いクマの姿をした悪魔だ。三メートルは超えるだろう。  ドゥレドは嗄れた低い男の声で冷静に進言し、気に食わないとばかりに唸る。  キューヌ、と呼ばれたのは、これまた巨大で蜘蛛の体に蟻の上半身が生えたような姿をした悪魔だ。胸部に甲殻でできたたわわな膨らみがある。  キューヌは耳に絡みつく妖艶な女の声で甘え、クスクスと楽しげに笑った。  彼らはどちらも〝王〟である。  年代としてはニューイと同世代だが、ニューイとはほとんど関わりがない。  ダメっ子と言われていたニューイと違い、この二人は出来っ子。  気に食わないから、めんどうくさいから、という理由で誰でもを消せる。 「消滅させましょう。お許しいただければ今すぐにでもオレが」 「ウフフ。体に教えれば言うこと聞くでしょ? アタシそういうのスキよ」 「わかったわかった。お主らの言い分はわかった故、そう急くな」 「「では?」」 「ニューイは処分せん」  揃って早く早くと急かす二人に対し、悪魔王はキッパリと決定した。  二人の表情には明らかに「不満です!」と書いてあるが、知らん顔をする。  悪魔王にとっては、どちらも自分の子どもなのだ。アカデミーの成績や悪魔らしさの優劣は関係ない。  命令を聞かなかったくらいで消滅させていては、悪魔の親などやっていられないだろう。なんせ、全員欲深く我が強い。  最も悪魔らしくない悪魔であるニューイですら、あれほど欲深く我が強い。  普段は紳士ぶるだけで根っから子どものくせに、キレるとちゃんと紳士的になるところが不思議な性質だ。  不思議な性質だが強いので、更に悪魔王は首を傾げることになる。  王の位を持つ悪魔の中でも、なかなか上位に強い。それはドゥレドもキューヌも承知済みのはず。 「まぁ、お主ら二人でならニューイに勝てるであろうが……我が気にしておらぬのだ。放っておけ」 「しかしっ」 「だってぇ」 「くどい」  そう言った悪魔王が玉座の肘置きを指先でトンッ、と叩いた途端──二人の悪魔はその場から跡形もなく消えてしまった。  ダダをこねる子どもは強制退場だ。  身勝手な悪魔の親である悪魔王とて、また気まぐれな王。 「甘えたな子どもたちよ……さて、ラストステージ改の制作に励むとしよう。ククク……クゾウ、お主の悔しがる顔が早く見たい……クク……ククク……」  悪魔王としての仕事も大事だが、趣味の時間も大事なのである。

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