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クリスマスから年末年始。
あけましておめでとう。
そんな新年がサクッと過ぎ去り──現在は九蔵とニューイが付き合って四ヶ月目に突入する、二月。
クリスマス以来、九蔵たちはなんの変化もない生活を送っていた。
年末年始は華麗にスルーだ。
特別なことはなにもしない。特別な時間を一緒に過ごしたいニューイは、同じ部屋の中で毎日暮らしている。
となると九蔵は元来の出不精と個人プレー気質が発揮され、安定した日常にドブドブと溺れてしまった。
有り体に言うと、慣れだ。
クリスマスにお互いの気持ちと確かな友人関係を感じ、九蔵はニューイと愛し合っていることに多少の自信を得た。
──ニューイはとても自分が好きだぞ。好かれているぞ。散々ダメになったのに変わりもしないらしい。
そうやってニューイが心底ベタ惚れてくれていることをやっと理解し、無意識に安心してしまっていたのである。
故に芽生えた、油断。
「九蔵。二月になったのでサプライズより事前連絡をと思い言っておくのだが……私はもうあの日の贈り物を準備しているのである」
「は?」
夜勤前の夕飯タイムにニコニコと切り出された話が理解できず、オムライスの乗ったスプーンを口に入れかけた九蔵は、ピタリと静止した。
二月? 二月の贈り物?
準備をしなければならない二月の贈り物の話なんてしたことがあったのか?
「ほら、二月と言えばあの日だろう?」
「あ、はい。そうですね。あの日ですね」
「うむ! ふふふ。九蔵が覚えていてくれて嬉しいぞ!」
「いやいや。俺さんがあの日を忘れるわけないでしょうて」
「ということは、もちろん九蔵も準備をしてくれていたと?」
「万事抜かりなく」
「流石九蔵であるっ」
ニコニコスマイルのニューイを前に、九蔵は冷や汗をタラリと流した。
愛想笑いでなんとか会話を合わせただけで、内心では小さな九蔵が「なんの話ですか──ッ!?」とてんてこ舞いだ。
忘れるどころかニューイのいうあの日に一切心当たりがない。準備なんてしているわけもない。
そんなこととは露知らず、ニューイはオムライスを食べながら嬉しげだ。
「クリスマス以来、これといって恋人らしいことをできていなかったからね……それが実は気がかりだったのだよ」
「はい」
「ムフフ、あの日を九蔵が覚えていてくれて嬉しいぞ。新年にすら興味のないキミのことだからと、確認する必要はなかったようだ。ごめんよ、九蔵」
「いえ」
「人間が喜ぶ特別なことができるか自信はないが、贈り物を楽しみにしていておくれ」
「とても楽しみです」
ニューイが楽しそうに語れば語るほど死にそうな九蔵に気づかないニューイ。
これだけウキウキと話されてはその場の空気で合わせたのだと白状もできず、九蔵はもう後に引けない有り様である。
(あの日? あの日ってなんだ!? なんかの記念日か、せめてヒントでもあれば俺の記憶も本気を……っ)
こうなるとなんとしてもあの日を理解し、大急ぎで合わせるしかない。
そう心に決めた九蔵が探りを入れようとした時、ニコニコニューイが浮かれた勢いで、ボソリと独り言を漏らす。
「しかし二人で迎える初めてのあの日だからと、張り切ってしまったな……私の手作り、気に入ってくれるだろうか……」
「ハッ……!」
途端、九蔵はようやくあの日がなんの日のことなのかを理解した。
──バレンタインデー。
準備が必要な手作りプレゼントを贈り合う、二月のあの日。
恋人同士の甘いイベントであり、ましてや一年目ともなると愛情表現として欠かせないスウィートなあの日だ。
そりゃあニューイと言えど、ダイレクトに「恋人なんだから当然チョコをくれるのだろう?」とは言えまい。
関係性によるが、当たり前に貰う気で強請るものではないのに当たり前にあげるものではある。
なるほどと理解はした。
しかし……手作りか。
ニューイさんは、手作りか。
「お……俺さんはお菓子を作れません」
「? 私も作れないぞ?」
「はい。頑張ります」
家事能力が壊滅的で作れないニューイが手作りしたという愛に、九蔵は死ぬ気で間に合わせる覚悟を決めたのであった。
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