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「にゅ、ニューイ〜。あんま気にすんな。恋人たちの聖イベントはクリスマスだろ? 俺らクリアしてたぜ。あとはサブイベだって」 『うっうっごめんよ九蔵っ。薄情な悪魔でごめんよごめんよっ』 「お気になさらず」 『交際一年目のバレンタインはウキウキクッキングが常識と聞いたのにぃぃぃ……!』 「お気になさらず! お気になさらず!」  ──というか、お気になされるとこちらの良心もズタズタですのでッ!  ニューイの嘆きに身に覚えしかない九蔵は、間接的にグサグサッ! とハートに大ダメージを受けた。  それでも素知らぬ顔で必死にペチペチなでなでとニューイの頭蓋骨をなでて慰めると、ようやくボフッ! とニューイの姿が戻る。  なんとか持ち直したらしい。  よかった。本当によかった。 「死ぬかと思いました……」 「死のうかと思ったのだよ……」  しょぼくれるニューイにしがみつかれる九蔵。二人しては〜っと息を吐いた。  取り敢えずバレンタインは解決だ。  たぶん、解決だ。 「…………うん」  九蔵は首をひねって、背後から自分に抱きつくニューイを伺う。 「でさ、ニューイはなんのつもりで二月の手作りプレゼントどうこうって言ってたんだ? 俺に準備があるとか……」 「あぁ、それはね」  不安からドキドキと鼓動が早まった。  自分は他になにか忘れていたのだろうか。全く思いつかない。自分なりに愛情表現を頑張ろうと決めた矢先、これ以上薄情なうっかりを重ねたくないのだが。 「これのことである」 「これ?」  そんな九蔵の内心を知らず、ニューイはポケットから小さな箱を取りだした。  ニューイのポケットは容量も手持ちも選ばない不思議ポケットなのでツッコまない。未来の悪魔型ロボットとする。 「九蔵に準備はいいかい? と聞いたのは、心の準備だ。キミはサプライズに弱いので、念のために。私の準備は手作りプレゼントで……開けてみておくれ」  緊張しながら、ニューイはおずおずと九蔵の手を取り、そのひらに箱を乗せた。  青い包装の箱だ。  冷たく滑らかな手触りはガラスに間違いないのだが、ビロードのように柔らかい。  言われるがまま群青色のリボンを解くと、不思議素材はスルリと解けて包みが開く。  パカ、と白い箱を開けば、中にあったのは質の良さそうな滑らかな革に金糸が編み込まれた──髪ゴムだった。  九蔵の心臓がトク、と高鳴る。  少しよれた刺繍。丁寧に作られていることがわかるものの、どうしても歪な線を描く不器用なプレゼント。 「……これ、俺に?」 「もちろん。キミはアルバイトで髪を縛るだろう? この刺繍糸には悪魔液を染み込ませて、呪いをかけてあるのだ。離れていてもキミのそばにいるよ」 「っそんな、いや、でもなんで」 「? なぜって、当たり前じゃないか」 「は?」  ひと目でニューイが時間と手間をかけて誂えたものだとわかるそれを、貰う理由がわからない。  九蔵は微かに上気した頬をヒクつかせ、眉を下げてニューイを伺った。  するとニューイはキョトンと目を丸くして、それから満面の笑みをうかべる。 「少し早いが、ハッピーバースデー九蔵」 「っ」 「私にとって大切な二月のイベントと言えば、二月二十二日。──キミの誕生日だよ」 「たっ……!」  眩しい笑顔で自分をのぞき込むニューイの言葉に、九蔵は面食らった。  言われるまで忘れていた。  というか、誕生日を言った記憶がない。  いやまあ確かにニューイは同じ部屋に住んでいるのだから、掃除のはずみでいくらでも書類なりを見つけてたまたま知ることはできるだろう。  けれど、でも、だって、そんな。  個々残 九蔵の誕生日なんて、本人ですら今の今まで思い出さなかったくらい、どうでもいい日じゃないか。 「〜〜っ心の準備、できてねぇっ……!」 「むっ!?」  九蔵はたまらず燃えさかりそうな顔を両手で覆い、ニューイの腕の中で丸くなった。

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