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281※微

 ニューイの顔が耳まで真っ赤に色づいている。ニューイはしばらくうぅ~と唸り声を上げてから、手の隙間から困り果てた様子で九蔵を睨んだ。 「あぁもう……表情も、声音も、息遣いや仕草まで、九蔵は本気で誘うと本当にタチが悪い……」 「いや、その、俺だって死ぬほど恥ずかしいのをねじ伏せて誘ったんだからな? 全然余裕とかねえし、割ともう照れてるってか……」 「私はいつもキミの匂いで頭が変になりそうだ。キミの誘惑に抗える悪魔がいたら、是非その方法をご指導ご鞭撻いただきたいよ」 「え、……抗うんですか」 「違う。途中で勘弁してあげるためさ」 「ぉあっ」  恋人らしいスキンシップのために珍しく肉体言語に訴えたはずが抗い方を知りたがるニューイに、微か不安になる。  けれどそれはすぐに否定され、ニューイは九蔵の体を抱き寄せて尻に腕を添え、持ち上げながら立ち上がった。  体がフワリと浮き上がる。 「ちょっ、ニューイ?」 「ベッドへ行こう。テンチョーにアルバイト復帰は来週のシフトからと言われたのだろう? 今夜は止まってあげられない。キミに恋をして私の理性は千歳から十四歳だ!」  真剣な顔で中二宣言の悪魔様。  数歩揺れてから九蔵をベッドの上へ丁寧に降ろしたニューイは、ガバッとインナーごとセーターを脱いで上裸になった。  傷一つない肉体美が晒され、九蔵は一瞬目のやり場に困る。  見慣れてきているとはいえ不意打ちも直視も恥ずかしいことに変わりはない。  ニューイは凄く美しい男だ。  だからこそエロい。紳士な子犬系イケメンがケダモノになるギャップである。 「むぅ……あのな、九蔵はいつも私の体をわいせつ物扱いするが、私にとっては九蔵の体もわいせつ物なのだよ?」 「そういうリップサービスはいらねーぞ」 「はぁぁ……九蔵の自己肯定感はいったいどこへ迷子になってしまったのか……!」  九蔵が視線をあちこちにうろつかせていると、ギシ、とスプリングを軋ませ、恨みがましげな王子様がにじり寄った。  逆光スチルが尊い。じゃなくて。  その気になってくれている顔を見るに、あんなに一生懸命作ったバレンタインケーキを放置してのお誘いは、しっかり功を奏したらしい。  ゴソゴソと服を脱ぎつつ、九蔵は密かにホッと胸をなでおろした。  ニューイの好みそうな誘い文句を少しくらいはわかっていると思うが、いかんせん自信がなく、いつだって心臓が痛い。  ニューイが誘いに乗ってくれて、やっと緊張がほぐれる。  それに、期待感もある。 「ん……ぅっ……」 「九蔵は首筋が弱いね。もしかして普段から、私の贈ったネックレスで感じていたりするのかい?」 「流石にそこまでは、っは、ぁ……ないです……ん」 「本当に?」 「無自覚言葉責め封印してくれ」  最近は声と舌がなかったので、二、三日に一度最低限の欲望を食べてもらう程度にしか触れ合っていなかった。  こうして吸いついては離れ、角度を変えながら舌を絡め合うキスをすることも。  キスの合間に晒された素肌を温かい手が愛撫することも。 「久しぶりだから、緊張するので……」 「緊張しないが、興奮するのだよ」 「ぅあッ……」  チュ、チュ、と唇を重ね爪先が乳首を掠めると、九蔵の体が弓なりにしなった。  抱きしめるように密着し、ニューイの手に浮き上がる腰や背をマッサージされ、すぐに体が熱くなる。  おっと、マズイ。  後戻りができるうちに、ちゃんとわかりやすい愛情表現をしなければ。 「ニューイ、ちっと待って」 「ん?」  九蔵は火照った声で静止をかけ、のろのろと起き上がった。  不思議そうなニューイはさておき、ベッドサイドのチェストからブツを取り出して、こっそりと口元に塗ってみる。  ズーズィがくれた娼婦のルージュ。  真っ赤なこれを唇に塗ると、……キスやアレが上手くなるらしい。  リップクリームの要領だが、鏡を見ていないのであっているかはわからない。  九蔵は座って待っているニューイの足元へ、四つん這いでモソモソと戻る。 「? 九蔵?」 「こっち、俺が、やります」 「へっ!?」  イエス。レッツご奉仕。  返事も聞かず、九蔵はニューイのベルトをカチャカチャと外し、フロントホックを指で弾いた。

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