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なんせ個々残家の家事は、縁下でほとんど九蔵がこなしている。
それを知ったニューイは絶望的に縮こまるが、澄央はチッチと立てた指を振った。
「あくまでこれは、ココさんの自己肯定感引き出すための情報収集ス。ニューイが落ち込むことないス」
「だけど私はポンコツじゃないか? こういうお嫁さんを、かかあ天下と言うのだろう? 鬼嫁とも言う。悪魔嫁である」
「いやいや。ココさんを舐めちゃいけないス。ココさんは恋愛にはモノグサで、愛情表現も苦手スよね? ニューイのフォローをする自分という状況で、そこを許してもらおうとしてるんスよ。だからなんも言わないんス。喜んでやってるんス。俺にはわかる」
「なるほど……真木茄 澄央が本物の名探偵なんじゃないかとヒヤヒヤするくらい納得してしまった……」
謎の自信を持って頷く澄央の言い分のしっくり感に感心するニューイ。
九蔵はこの不平等さを我慢していたわけでなく、これでいいと思っているからなんとも思っていないらしい。
納得したニューイは、澄央からノートの表を受け取った。
もし九蔵がまた不公平やら足りてないやら言い始めたら、この結果を見せるのだ。十分、いやむしろ逆不公平だと。もっと貢がせてくれと。
ニューイは表を綺麗に折りたたんでポケットにしまい、ぐで、とちゃぶ台に伏す。
「ふーむ……どうやら九蔵は私の恋心の理由に、見当がつかないらしい」
「そっスねー……桜庭なズーズィとデートして告られた時も、〝俺を好きな理由が納得できないので〟ってお断りしてたス」
「筋金入りである……仮に私が生活費と家事の全てを負担していたとしても文句がないほど、私は九蔵にたくさんのものを貰っているのだよ」
「たくさん?」
そう、と頷いた。
顔を上げて澄央を見つめると、自然にニヘ、と間抜けな笑みが漏れる。
「よし、ノロケ話を聞いてほしい。私の九蔵の話は長いと、ズーズィは聞いてくれないのだ」
「バッチコイ!」
「ハラショー!」
流石は盟友。
親指を突き出す澄央に、ニューイは嬉々として親指を当てる。
そう──そうなのだ。
ニューイには、魂を除いて九蔵の好きなところがたくさんあるのだ。
しかし普段からポンポンと吐き出す本心は九蔵を照れさせてしまい、あまりしっかり長々と説明はさせてもらえない。
表面的な言葉だけが九蔵の鼓膜を揺らし、九蔵は理由をわかっていない。
だから不安で愛しすぎるのだろう。
さじ加減が下手くそである。
九蔵は〝なにもしていないのにニューイが好きになってくれたので、ニューイにお得なことをしなければ〟と思っている。
──全然違うよ、九蔵。
ニューイは口の中で呟いた。
「九蔵はね、私に頼らない」
ちゃぶ台に上体を預けていると、シャツの隙間からお揃いのネックレスが零れてチャリ、と鳴く。
「だから私が九蔵を守れなかったり悩みに気づかなかったり、それこそ家事の負担が不平等でも、九蔵は私に〝期待はずれ〟だとは思わない……九蔵は私に、失望しないのだ」
失望されない。
それは期待されていないわけじゃなくて、九蔵がニューイを大切にしているから。
九蔵は常に期待している。
ニューイの失敗が失敗に見えないキラキラの素敵な瞳で、何度も許す。
なにごともチャレンジしては失敗しダメだダメだと言われてきた不器用なニューイは、そんな九蔵が救いに感じた。
失敗を許され、失望されない。
それだけで救われる。
なぜならニューイは真剣に、一生懸命に、失敗するからだ。
それこそ唯一無二と全てを賭して愛した女性と契約することをうっかり忘れるほど、心から失敗するのだ。
九蔵とも、過去に遡ると本当に酷い。
というかドジしかしていない。
プロポーズに必死で、うっかり寝起きのお宅に突撃しあまつさえ玄関ドアを破壊。
家事手伝いをしようとして、うっかり部屋中を破壊。なお現在進行形。
勝手に部屋を出て九蔵とズーズィのお出かけは尾行するし、食べきれないほどの料理を貢ぎ、最終的には割って入った。
遊園地が楽しすぎて暴走。
好きが爆発しかけて独占欲でバカになり、勢いでプロポーズ。
メソメソとしがみついた上に、あの時の九蔵のメンタルヘルスは地獄だったが全く気づかず、翌朝我に返ってオロオロした。
別れようにも踏ん切りはつかない。
しかし泣きながら帰ってきたニューイのダメダメな告白を、九蔵は受け入れてくれた。
夜が明けても考え込むニューイの思考はワンパンで許してくれたし、交際に浮かれてくっつきたがるニューイを鬱陶しがらずにいてくれたのだ。
それら全ての瞬間で──ニューイは九蔵に、抗い難いほど恋をした。
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