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「九蔵は凄いぞ! あれもこれもどれも、私の全部を許してくれる」
ニューイは指折り語る。
自然にニコニコと笑顔になる。
「怒っていないだとか嫌じゃないだとか心が広いわけじゃないのだ。ちゃんと嫌だなと、困ったなと、思っているのに許してくれるのだ。だからこそ、九蔵は本当に優しい人間なのだよ!」
ホワホワと花が飛ぶニューイ。
気にならないから許してくれるのではなく、気にしているのに許してくれるからこそ、九蔵は優しい。九蔵は素晴らしい。
サプライズデートは迷惑をかけた。
そもそもデートを失念していた自分は冷たい悪魔だ。ニューイとてミスをしている。
しかし九蔵は喜んでくれたし、いつも自分から〝なにかしてほしいことは?〟と尋ねてくれた。
九蔵はニューイを気遣うことを忘れない。失敗を繰り返す人間という生き物でありながら、おっかなびっくりオドオドと挽回すべく後を着いて歩く。
ポロリと零した不安。
〝好かれ続ける自信がない〟と。
キラキラの大人っぽいスマートな王子様なら抱かず言わないだろうニューイの不安を聞いて、九蔵は特製おにぎりを握ってくれた。
それだけでも幸せなのに、ニューイの提案も受け入れてくれた。
クリスマスパーティーも、だ。
九蔵は見知らぬ世界があまり好きじゃないのだが、パーティーに来てくれた。
虐められたニューイを助けるために駆けつけてくれたし、ニューイの宝物を守るために不審な白ウサギについて行った。
そして怖い目に遭っても、楽しかったと。また来年もと、言ってくれた。
嬉しかった。
嬉しかった。
とても嬉しかった。
今回なんて、最も酷い。
誕生日に浮かれてバレンタインデーはうっかり忘れたのだ。
ドゥレドが九蔵の舌と声を奪うまで気づかず守れなかった上に、ニューイはなかなか本気で凹んでいたのである。
当然九蔵が悩んでいることになんてちっとも知らず、たまたまの言葉が九蔵を救ったに過ぎない。
たまたま救われた九蔵は、しっかりニューイを王子様にして救ってくれた。
九蔵の王子様は、キラキラと輝く強く優しい王子様であるべきだろう?
それだけで顔を上げる。
凹んだ部分をポコッと盛り上げる。
そんな簡単な男だった。
ニューイは九蔵が思うほどいい男じゃないと、胸を張れる自覚があるのだ。
いつもいつも九蔵の機嫌を伺っている。
鬱陶しがられないか? 呆れられないか? 上手に人間生活ができているか?
そう思っている。
──ずっとキミに、愛されていたい。
九蔵の知らないニューイの裏側。
ニューイは王子様ではないし王子様にはなれないが、王子様を演じている 。
王子様の座を誰にも譲りたくないから、ニューイはキラキラの王子様になりたい。
ドジでダメっ子な自分なのでうまくできていないとも思うが、自分なりに余裕ぶって見せている。見せているだけで、余裕はない。
笑ってしまう。
九蔵に好かれたくて必死だ。
ニューイがキラキラに見えている九蔵が自分はダメだと少し弱るたび、密かに〝ごめんよ〟と謝ってみる。
「本当の私は、ちっともキラキラしていないのだ。ハリボテ王子なのだよ」
──だから本当に、キミが気に病むことはないんだぞ?
そう言ってあげればいいものを、言わずに殊勝な顔で慰めているからだ。
九蔵は簡単にニューイをフワフワと舞い上がらせられて、地の底へ叩き落とすこともできる、ニューイのコントローラー。
九蔵の言葉で一喜一憂する。ニューイの感情は九蔵に所有されている。
それが心底嬉しい。
「ね? 私は相当な臆病者で、これっぽっちの自信もないぞ」
これっぽっち、と、笑うニューイは親指と人差し指で隙間を作る。
「だけど私がそう言うと、九蔵は〝自信のない自分だが、誰よりもお前が好きな自信だけはある〟と言ったのだ」
「ほほう……」
「それを聞いて私は、確かに九蔵が好きな自信は尽きないほどあるぞ、と気がついた。自信のない私が九蔵のために脇目も振らずひた走っている原動力は、九蔵が与えたのだ」
「なるほど」
「うむ。しかし、九蔵自身はしっかり忘れているのである」
静かにウンウンと話を聞いていた澄央に、ニューイは困った困ったと眉を下げた。
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