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──その頃、九蔵。
悪魔の世界にて。
「もー……俺さん、せぇっかく筋トレしたんだぜ? あはっ。飲ませちゃあダメだってぇ……んふふっ」
「めっちゃ笑顔なの草」
ズーズィのお屋敷に招待され、ものの見事にベロベロに酔わされていた。
ゴテゴテのシックで豪華なリビングルームだ。革張りの上等なソファーでぐでぐでとする九蔵の隣で、家主のズーズィはゲラゲラと笑い転げている。
こんなつもりではなかった。
九蔵はベタァ~と背もたれに張りつき、真っ赤な頬を革で冷ます。
ニューイに帰りが遅くなると言ったのは、飲みの約束があったわけじゃない。
お察しの通り筋トレをしていただけだ。
ジムに行くのは勇気がいる。
自分だけでするとニューイにバレそうで恥ずかしいし、サボる可能性が大きい。
結果、断固マッスル教に入信させたいドゥレドに「空いている時間はトレーニングだ」と秘密基地に連行され、定期的に鍛えているのである。
九蔵用負荷なので時間は短く、思っていたよりキツくもない。
九蔵が意地になっていることもあり、今のところは順調にボディを引き締められている。手足はスッキリしてきたと思うし、腹のたぷつきもかなり減った。
そんな本日──筋トレ帰りの九蔵を突然現れたズーズィが確保し、宅飲みを敢行した結果がこれだ。
ねぇねぇクーにゃん! とまとわりつくズーズィに、九蔵はなんやかんやで押し切られてしまった。
──あぁ酷い。あんまりだ。
せっかく引き締まった腹がまたたぷついたらどうしよう?
頑なにスキンシップに拘るニューイに不貞腐れた九蔵は、意地になってひたすらお誘いを突っぱねていた。
だってヒミツの特訓をしている気配を感じるのに、ニューイはなにも明かさない。むしろ九蔵がドゥレドジムに通い始めてから、頻度が上がった。
もしや避けられているのか? と思うと、九蔵はちっともおもしろくない。
なので食事の時は触れ合うが、終わったあとにニューイから感じる〝食事とは別に愛の営みでもいたしましょうぜ〟というオーラは全力でシカトしている。
まぁ、別に、体に変化が出てきたので、抱かれることはやぶさかでもないのだ。
本音を言うと中が疼く時もある。
ただそれより、多少の筋肉によるボディへの自信を得て、九蔵は逆にニューイを押し倒してやろうと考えていた。
いつもの仕返し。
焦らしプレイで追い詰める。
そしてここぞという状態で、ニューイの思考と行動をニューイの口から白状させよう! という魂胆があった。
にも関わらず。
ズーズィの誘いに負け、夜更けに酒瓶を空けまくっているこの状況は、リバウンド的になかなか危ないだろう。
計画が破綻してしまう。
そうなるとまた月単位で欲求不満なニューイを待たせなければならない。
流石にそれは危険だ。
なにがとは言わないが。
それに二人ともが引っ込みがつかず拗ねる状態が続くと、戻り時がわからなくなりそうである。危険極まりない。
もちろんシラフの九蔵は、きちんとそこまで考えていた。
しかし下戸な九蔵はアルコールを摂取するとデレデレベロベロ甘えん坊になってしまうので、現状──ズーズィとの強制飲み会からは逃れられないのであった。
「う〜……こんな飲んだら、また腹が出ちまうよ……? ズーズィ、意地悪ぃの」
「アハ! わ、ざ、と!」
顔を真っ赤にしてぐでる九蔵の肩に腕を回し、ズーズィはニヤァ~と笑う。
意地の悪い笑顔だ。
九蔵が酒におぼれる様が愉快らしい。
九蔵は唇を尖らせ、ヘロヘロの腕でズーズィの体を軽く押しやった。
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