「おいおい、ダチが自分以外見てたからってしょげんな〜」 「カントク、友達じゃないぞ」 「あ？」 「この職人が如き目つきで男を見定めていたカワイイ九蔵は、私の恋人なのだよ。そこのところよく覚えておくれ」 「あ〜っ？」 「そして闇堕ちしているのではなく、これが九蔵の素の目つきだ。イケメンに関すること以外では誰よりも常識的で器用な人間なので安心してほしい……！」 「いや安心できねぇわ〜！　全然安心できねぇわ！　わが社屈指のイケメンモデル・ニューイくんのお相手が彼女じゃなくて彼氏だった件オジさん聞いてねぇんだけど！」 　力説するニューイと、目玉をひんむいてニューイを見つめる三藤。 　しかし流れでこの可能性を感じる男がカントクと聞き、九蔵は若干気が萎えた。 　カントク。現場監督。 　ニューイの話によく出てくるこの監督のおかげで、今まで九蔵は散々スケベな展開に持ち込まれてきたのだ。 　そう思うと、男女の違いはもう一つあったかもしれない。 　女は集まるとガールズトークが始まりグループ化するくらいだが、男は集まると、なぜか悪ノリという名のおバカ行動を起こす。 　イタズラであったり、若気の至りであったり。そして、猥談であったり。 「あー……初めまして、監督さん。個々残 九蔵です。……いつもニューイがお世話になっております」 　コスプレセックスその他謎プレイを仕込んだことを、まだ忘れちゃいない。 　大人の対応で軽く会釈をする九蔵だが、その裏側には「頼むからこれ以上エロ知識を教えてくれるなよ」という念がこもっていた。 　そんな九蔵の下手くそな愛想笑いに「うへっ」と声を上げる三藤。 　そこまで不気味な笑い方だろうか。 　ややショックを受ける九蔵である。 　そんなやりとりをちょうど終えたタイミングで、カウンターから「おーい」と明るい声が聞こえた。 「サトちゃん、どうしたの？」 「「サトちゃん？」」 「ユナ」 「「ユナ？」」 　そう呼んだのは、夕菜だ。 　そして呼ばれたのは、三藤。 　九蔵とニューイはそろって首を傾げる。 　榊とキューヌは我関せずだ。二人で「あーん」とイチャイチャ食べさせあいっこをしている。 　ついさっきまでキューヌに箸の使い方を教えていたはずなのにいつの間にやら膝抱っこ状態なので、むしろ触れてはいけない。 「いや、別に。朝会わなかったから、仕事行く前に覗いていくかって思っただけ」 「そうなのね～」 　九蔵とニューイがポカンとしてるのをしり目に、三藤は後頭部をガシガシと掻きながら夕菜のそばへ行く。 　なんだなんだ。どういうことだ。この二人に接点があったのか？ 　九蔵とニューイは顔を見合わせるが、お互い首を横に振る。 　そんな九蔵とニューイに気がついた夕菜が、ニコニコと笑って三藤を手で指した。 「あ！　ココちゃんは初めましてね！　私たちいろいろあって事実婚だからまだ苗字は違うんだけど……この人、私の旦那さんなの」 「はっ？」 　なんですと。 「そちらのホリウッドスターさんは？」 「え？　あ、恋人のニューイさんです」 「あら！　夫とのご関係は？」 「現場監督とモデルかと」 「あら～！　うちの人がいつもお世話になってます！」 「あ、はい。こちらこそ、うちの彼氏がいつもお世話になってます」 　散々ともに仕事をしてきた仲でありながら、今更ペコリと頭を下げる九蔵と夕菜。 　──って違う！ 　ハッ！　と口元を押さえても後の祭りだ。衝撃の事実を知らされた流れでニューイのことを聞かれ、九蔵はあっさりと吐いてしまった。 　美園 夕菜。恐ろしい。 　雑談力まで主婦パワーの権化だ。 　そんな夕菜は九蔵とニコニコ挨拶を済ませた勢いで三藤を振り返り、コテンと小首を傾げる。 「で？　本当はなぁに？」 「えっ」 　三藤がビクゥッ！　と驚いた。 　部外者の九蔵にはわからないが、なにやら夕菜はお見通しらしい。