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「変に達観したような顔をするズボラなあなたが、私が朝ごはんを一緒に食べなかったくらいで様子を見になんてこないでしょー?」 「!? いやそれは」 「なんの用事? って最初に聞いたじゃない。バレバレよ」 「ぐっ……」 「ちなみにもう怒ってないから謝罪はいらないしご機嫌取りもいらないわ。わかったら素直に言いなさーい」 「ゆ、ユナ……」  足と腕を組んで笑顔のままサクッと追い詰める夕菜に、だらしない大人丸出しだった三藤がしょぼんと眉を下げる。  たじろぐ三藤に、ニューイはほほうと興味津々だ。  九蔵は夕菜があの見た目とあの性格で締める時は締める女性だと知っているため、大人しく見守る。  誰も助けてくれない朝のうまい屋。  観念した三藤は、夕菜にスッ、と手を差し出す。 「……その、買い出し用のクレカ……貰うの忘れただけだよ」 「はい素直でよろしい!」 「っオイ」  いい年をしたおじさんが唇を尖らせて出した手にポケットから取り出したものを握らせ、夕菜はなでなでと三藤の頭をなでた。  三藤は慌てて文句を言う。  けれど振り払おうとはしない。  デリカシーのない三藤といえど、夕菜の細腕を振り払うような乱暴はできないようだ。  二人を見守る九蔵とニューイは、夕菜にオモチャにされる三藤に合掌し、他人事だとほっこりした。 (……? そういえばうちのニューイさんは、なんでうまい屋に来たんだ?) 「うむ。ワシャワシャしてもらえてよかったね、カントク!」 「それは監督さんたいへん遺憾だろうけど……ニューイはなんかあったのか? うまい屋にくんのは珍しいだろ」 「ん? あっ、い、いや……実はこの前の意見交換会のあと、私にはモヤモヤしていることがあってだな……」 「え」  ビクッ、と九蔵の肩が跳ねる。  あの日の話なら、もう終わったはずだ。結構頑張って長々と語り合った。これ以上掘り返すのは勘弁していただきたい。  九蔵が内心そう青ざめると、ニューイは両手を合わせて口元を隠し、テレテレと上目遣いに九蔵を伺った。  ゴクリ、と唾を飲み込む。 「フォルダになぜか九蔵とズーズィのツーショットがあったのだ。……わ、私とも、ツーショットを撮ってほしいのだよ」 「…………もうすぐ上がりなので、お待ちください」  そのためだけに三藤に便乗し働く九蔵のもとへやってきたのなら、叱らなければいけない。  わかっているが文句が言えなくなった九蔵は、夕菜のようになるにはまだまだだな、と赤い頬を擦った。  ──その後。 「ユナのやつ、笑顔で『ついでにお米買ってきてね!』って、俺が今年でいくつだと思ってんだ……自分が若妻っちゅー自覚してくれっての……!」 「? カントクは四十代じゃないか。まだまだ若いのだから平気である」 「お前の頭バグってんのか?」 「至って正常であるが……だけどお嫁さんはカードと一緒に、カントクにお小遣いも持たせてくれただろう? お小遣いを貰ったら頑張らないとね!」 「わ、わかっとるわい。笑顔で追い打ちかけんな若者。大人しく彼氏とのツーショットでも見てろっ」 「言われなくとも待ち受け、ロック画面、その他可能な場所全てに設定してもらったとも」 「おっとすでに末期」 「あぁ九蔵……っ! このツーショット一枚でキミが望むなら、私は米俵をトンでおつかいするのである……っ!」 「マジか……お前コスパいい男だな……」 「? イチゴ、そこでなにしてるんスか? 夜勤スよね」 「いや……拙者は厠に行っておっただけでござるが、いつの間にか男と女、女と女、男と男のイチャイチャパレードが始まっていて……独り身ダメージが足にキテるのでござる……」 「哀れで早漏」 「そうろう違いで候! というか拙者早漏では、ってナス殿? 拙者の話を聞かずにどこへ、ナスどっ、ナス殿───ッ!?」 「男ってバカなんだよなぁ……」 「ちょっとサカキ、アタシが隣にいる時によそ見しないでぇ? アタシは人間らしく我慢してるでしょ? 巣に監禁して食べたりしないんだから、サカキはアタシのことだけ見てなきゃダーメ」 「あぁ、そっか。キュウちゃんはクモの悪魔だったよね」 「聞いてるの?」 「うん、聞いてるよ。だから私、女もバカだと思うなぁ」 「あら、なぁに?」 「ン〜……束縛されるのって好きじゃないんだけど……私はキュウちゃんの嫉妬も独占欲も、かわいいなぁって思っちゃうからさ」 「そう? ウフフ。バカな女は好きよ」 「ホント? やった。嬉しい」 「……でもアタシに好きって言わないところは、ズルいと思うわぁ……女タラシって、男も女も変わんないわね……」 「? どうしたの?」 「なんでもなぁい。恋って沼に百年ぽっち捧げてあげてもいいかしら? って思ってたとこ」 「百年ぽっちって、単位が凄いな」  第七.五話 了

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