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ビザは悪魔王に申請し許可を得てからエクソシスト協会の審査を通過し、初めて手にする一年間のフリーパスである。
ドゥレドもキューヌも持っている。
ニューイも取得していたが、期限切れにより急ぎ更新しなければ悪魔王の能力で強制送還させられるようだ。
「ちなみに、ズーズィは人間と期間契約をしているのだよ」
「マジでか」
ピコンと指を立てるニューイに、九蔵は目を丸くした。
数いる悪魔の中からズーズィを引き当てるとは、悪魔引きの悪い人間もいたものである。頼りになる悪魔だが、いかんせんイタズラ好きのいじめっ子なので九蔵ならば身が持たない。
なお、ビザがなくても食事のために人間の世界に降りることはできるらしい。
人間の欲望を食べる悪魔は、人間がその欲望を感じている最中にしかいただけない。
性欲は性行為中に。
食欲は食事中に。
睡眠欲は睡眠中に。
魂、生気は親密度を上げて油断させてから。その他もろもろ、制約がある。
要するに生モノなのだ。
産地に赴いて摂取するしかないだろう。
「ビザなしじゃあ日帰りでしかいられない。人間の記憶に残りにくくなるし、悪魔の姿になると誰にも見えなくなる。悪魔能力だってほとんど使えないのだ。人間が減ると悪魔も困るので、悪さをできないようにされているのだよ」
説明を終えたニューイはトーストをゴクリと飲み込み、キューンと鳴いた。
ビザの更新はしなければならないが九蔵と離れるのは嫌だ、ということか。もちろん九蔵とて寂しい。しかしそういうことなら、我慢しよう。
「俺のことは気にせず、行ってきな。必要なことなんだろ? 待ってるぜ」
「! く、九蔵〜……!」
聞き分けのいい恋人ぶって、九蔵はニヘ、と呆れた笑みを浮かべて見せた。
ニューイは九蔵の懐の深さに感激し、うるうると瞳をうるませる。寂しさを押して健気に送り出す良妻にでも見えているのだろう。
実際は「なる早でよろしくお願いします」と脳内の小さな九蔵が整列して敬礼しているのだが、知らぬが悪魔だ。
しめたものである。
これで体よくかっこつけられた。
「うぅ、寂しい思いをさせてすまないである……! 申請にどれくらい時間がかかるかわからないのだが、なるべく早く戻るからね!」
「え゛」
──帰りが未定とは聞いてねぇぞ!
九蔵のかっこつけは、後出しされた情報により秒速で破壊された。
待て待て待て。時間の概念が長い悪魔のテンポで更新手続きが進むんじゃあなかろうな? 数日のつもりだったが、数週間以上なら心の準備が必要だ。
脳内の焦りが凄まじい。
早くも詳細を聞かず、引き止めなかったことを後悔する九蔵。
しかし「マッハで帰るのだ……!」と使命感に燃えるニューイに、今更待ったをかけられるわけがない。
「あー……ちなみにいつ頃出発で?」
「ん? 今からさ」
「オーバーキル……ッ」
──そんなこんなで、遠距離決定。
九蔵は〝交際した時にはすでに同棲していた距離感が、はたして期間未定の別行動でどうなっているのやら〟と、一抹の不安を抱くのであった。
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