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──二週間後。
ゴールデンウィークなる接客業デストロイ週間がすぎても、ニューイは未だに帰ってきていなかった。
おかげで残された九蔵は、休日だというのにただ時間を浪費している。
九蔵はもともと、恋人とベタベタするタイプではない。
多少ニューイによってベタベタに慣らされドライではなくなっているものの、一週間程度ならソワソワしながらなんとかおひとり様ライフを楽しめるくらいの人間だ。
ところがどっこい。
二週間ともなると、おひとり様ライフを楽しむ時期と遠距離に慣れる時期のちょうど狭間である。
いかな九蔵といえど寂しさは募り、なにかと自堕落でやけっぱちな荒み方をし始める頃と言えるだろう。
食事はめんどうがって冷凍ご飯オンリー。シャワーはバイトの前日のみ。室内での口数は撲滅し、やることと言えばゲームか漫画、ドラマ鑑賞くらい。
外出なんてもってのほかだ。
睡眠時間とてまばらになる。
元来ダメ人間の九蔵は、誰も見ていないことをいいことに、バイト以外は怠惰なゴロゴロ三昧の日々を送っていた。
ああそうさ。
引きこもりさ。
なんとでも言ってくれ。
「…………」
カカカカカチャカカッカッ! とテクニカルな指さばきでゲームをしながら、ヘッドホン装備の九蔵は昼間からカーテンを閉め切った部屋で趣味に興じる。
別に、病んではいない。
ニューイロスなんてないのだ。
この二週間ニューイから連絡のひとつもないのは当たり前で、動じたりしない。
聞くところ、ビザの更新中は審査がおりるまで人間の世界へ連絡をとることは控えなければならないらしい。
九蔵は聞き分けのいい彼氏である。
もちろん自分から一切メッセージだって送らないし、通話もしない。
急な出発の時だって「まぁもしいい時があれば軽率に連絡してくださってもよろしくてよ?」とは、言わなかった。
ニューイはダバダバと今生の別れが如く泣いていたが、九蔵は泣いたりしない。聞き分けのいい彼氏なので。
強いてデレをあげるなら、行ってきますのキスが濃厚な上におさわり込みでキスマークを散々つけられたが、甘んじて受け入れたことだろうか。
聞き分けたくないと期限切れのビザを握りしめていたのは、ニューイだ。
ベソをかいたのもデレデレしていたのも最後まで渋っていたのも九蔵の体臭を深呼吸して摂取していたのも、全てニューイ。
九蔵は聞き分けがよかった。
「お、実績解除」
故に、ゲームに興じている。
理由はともあれまるでニューイがいなかったかのようにぼっちなのだ。
ニューイが来る前の生活に戻るくらい、許されてしかるべきじゃないか。
九蔵は内心ごちる。
別に「仮契約してるし、ズーズィに頼めば通話のひとつもできるか?」なんて魔が差したことなど、三回くらいしかない。
ズーズィに頼んでネタにされないわけがないことを思い出したので、スッパリ諦めている。
もちろんそのあと「ドゥレドなら秘密基地でこっそり会わせることもできるんじゃ……」と妙案を出したりも、五回くらいしかしていない。
なんせ、スマホとパソコンにはニューイ画像フォルダもある。
プレゼントの髪ゴムだって、癒し効果を感じた。お揃いのネックレスにもつながりを感じる。寂しがることはない。
まぁ、あえて言うなら、そう。
それら全て、オカズになるくらいか。
「っおあっ……!」
そう考えた瞬間、ゲーム画面に〝クエスト失敗〟の文字が浮かんだ。
そしてその後ろに、うっかり被弾した推しキャラの死体。
推しを殺すなんてショックが過ぎる。
死なせないためにバキバキの厳ついステータスへレベルアップしまくったというのに、一瞬の操作ミスが命取りだ。
イケメンキャラが多いと最近流行りのオンラインネットゲームをしていた九蔵は、渋々とコントローラーを置いた。
──ゲームへの関心の代わりに芽生えたものが、わかっているからだ。
「……、……」
九蔵は誰もいないとわかっている室内を、念のためにキョロキョロと確認した。間違いなく無人だ。
そっと立ち上がり、無言でベッドサイドからティッシュボックスを用意する。
「……ンン」
つまり、そういうこと 。
ニューイのことを考えながらオカズたちを思い浮かべていると、恋人と離れて二週間経つ男として当然の欲望がよぎったのだ。
週に二回の餌やりもない。
二十代の若い男が持て余す欲望など、一つしかないだろう。
それすなわち、性欲。
孤高のコミュ障ぼっちフリーターだった頃はあまり感じていなかった欲望の名だった。
ニューイはやはり悪魔様に違いない。
淡白だった体にたいへんな後遺症を残していったものだ。
あれだけベソをかいていたが、ニューイは悪魔の世界で九蔵を思い出しムラムラすることなんてないだろう。
けれど九蔵は違う。
人間は欲深だ。
「ま、必然でしょう……酔いどれ朝チュンイベから、最低週二でヤってましたから……別に俺がエロの味をしめたわけじゃなく……なんつーか、うん……全部ニューイさんのせい。です」
なのでこれは、生理現象。
誰もいないことをしっかり確認した上でも、自分に言い訳を忘れない。
カタツムリでももう少し日光を浴びるという薄暗い部屋で、九蔵はカチャリとベルトを外した。
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