361 / 459
361
──場面は戻って、チーム九蔵サイド。
ウサギの願望と九蔵たちの目的がはからずも合致してしまった不遇により、九蔵たちはウサギに連れられオオカミが待つ崖の上へ抜き足差し足とやってきた。
草の陰からひょっこり。二人と二匹は頭を覗かせ、オオカミの様子を伺う。
「ウォォン。グルルルル……」
オオカミはそこにいた。
暇そうにウサギが生贄を差し出すまで待っている様子のオオカミ。
二足歩行のカメに二足歩行のウサギが出てきたのだから、当然二足歩行だ。
確かに大きめのヒグマサイズのオオカミは、思っていたよりも狂暴そうなオオカミだと思う。ギラつく牙に固そうな毛皮。筋骨隆々で血走った瞳が残虐さを演出しており、なにかとリアルで生々しい。
四足歩行のオーソドックスなオオカミが束になっても敵わないだろう。
ウサギがヒィンと悲鳴を上げる。
「ほらもう全然勝てる気がしないでござる。全然しないでござる。なにを食せばかような姿に育つのじゃ? オオカミという枠に収まる器ではなかろうて。妖怪かモンスターであろうて。えんがちょえんがちょ」
「そうかい? 悪魔の世界のオオカミはもう少し狂暴な姿をしているからカワイイほうだと思うのである」
「俺っちカメのほうが怖かったさ」
「某お主らとは仲良くなれんでござるぅっ!」
のほほんニューイとカメさんズに怯えるシッポに同意を得られず、ウサギはまたしても地団駄を踏んでキィ~っと悔しそうに吠えた。
しかし九蔵としては、普通のオオカミより厳つい二足歩行のオオカミは、なんとなく怖さが半減する。
二足歩行のオオカミはゲームでおなじみのモンスターだからだ。
襲われると怖いだろうが、見ているぶんにはそうでもない。現実味がなさすぎて、むしろ怖くない九蔵であった。
(まぁこの距離ならヘッドショット余裕……ゾンビゲー的にトラバサミとワイヤートラップリサイクルして爆破と同時に接近キックからのナイフ無双……いや、モンスター狩猟的に行くと足責めからの頭部ハンマーでスタン、起き上がり読み溜めハンマーでスタンループ確定……いやでもアシラサイズなら動き速そうだし太刀か双剣……でも俺ハンマー厨だしな~……)
というかゲーム脳。手遅れである。口に出していたところでこの場の誰も理解できないが、理解できなくても問題はないだろう。
ふむ、と顎に手を当てつつ、九蔵はウサギを見ながらオオカミを指をさした。
「じゃ、とりあえず行ってみましょう」
「なぜ一番手が某ッ!? こんなに怯えるきゃわゆいウサたんに躊躇なくゴーを出すとは血も涙もないのでござるかッ!?」
「もともとお前さんの問題ですよね? チャレンジする前から丸投げってのはどうかと思いますよ。はい。じゃ、シッポもつけますので特攻しましょう」
「この人でなしィッ!」
この場で唯一の人間に人でなしとは。
一番人間らしい自信しかない九蔵は失礼なウサギに呆れつつ、腕の中のシッポをウサギに差し出す。
お供を付けてやるから行ってこい、という意思表示だ。
「諦めるさぁ~。アリスは仲良し認定してないウサギには厳しいさぁ? そもそもトカゲのお願いを叶えるためと俺っちたちが追いかけられないようにするためだけにウサギの頼みに付き合ってるだけで、ホントはちっとも興味がないのさ~」
「げぇぇ~……友達に甘すぎるのか、その他にドライすぎるのか、愛らしいウサギに揺らがないとはつまらん男でござるなっ。ウサギが八つ裂きにされてもいいのでござるか鬼畜生め……!」
「ウサギはチャレンジさ~」
「馬鹿者っ! ウサギたるもの脱兎のごとしじゃっ!」
「逃げるなんてとんでもないさ。そんなつまらないことをしたら赤の女王に首を切られるさぁ? そもそもウサギは急ぐものさぁ! 生き急ぐのもウサギなのさ~」
「生き急ぎぃ~? 楽して長生きするのがウサギでござろうてぇ!」
お互い見つめ合いこいつとは合わないとしきりに首を傾げるウサギ二匹は、ブツブツと文句を言いながらも茂みからピョン! と飛び出た。
ともだちにシェアしよう!