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 ペソ、ペソ、と辛気臭い足音を奏でつつ進むウサギーズ。  それを見守る九蔵とニューイ。  ニューイはハラハラドキドキしている。九蔵は「まぁなにかあったらヘッドショットキメるからさ」と脳内でフォローをいれる。  そう心配しなくても大丈夫だろう。元ネタでは、ウサギがオオカミを口八丁で崖に誘導し、見事突き落としてサヨウナラをする展開だった。問題ない。 「たっ頼もう!」 「アァン?」  ほどなくしてオオカミのそばにたどり着いたウサギは、シッポをきゅっと抱きしめて勇ましくオオカミを呼んだ。  なお後ろ足はガックガクである。  生まれたての小鹿か。これは早くもダメかもしれない。 「この俺様に気安く声をかけるたァ無礼じゃねェか。テメェら誰だよ」 「そそそ某っ、ウサギ村のウサギでごじゃるっ!」 「ウァオン! 待ってたぜ! 三時のオヤツちゃん~!」 「惨事のオヤツっ!」  おいしそうなフワフワウサギ二匹を見つけてキラキラと目を輝かせたオオカミに、ウサギはギュンッと背を仰け反らせて泡を吹く。  オロオロと心配そうなニューイ。 「オオカミも喋るのな」と冷静な九蔵。  ウサギが悶絶していつまでたっても原作どおりオオカミを誑かそうとしないでいると、焦れたシッポがウサギの腕の中で「オオカミ様~!」と声をあげた。  ウサギが目玉をひん剥いている。知ったこっちゃない。それいけシッポ。 「なんだよホットスナック」 「それがですねぇ。今すぐここに子ウサギを連れてきたいのはやまやまですがぁ、オオカミ様のお姿が凛々しすぎてぇ、子ウサギが怯えておるのですさぁ~」 「! フフフン。そら俺様はこんなにイケてるオオカミだからなァ。おつまみどもが怯えたって無理もねぇぜ」 「そうでしょうともそうでしょうとも」  オオカミはグヒヒと笑った。  調子よくオオカミをよいしょしたシッポは、ウサギをさり気なく耳でつつく。  泡を吹いていたウサギは顔面蒼白でなんとか背筋を伸ばし、モミモミと肉球を揉み合わせる。 「そっ、それでですな。オオカミ様には子ウサギを連れてくるまで、是非ともあちらを向いていてほしいのでござりますはい。ほんのちょっと、ほんのちょっとだけでござるのではい。ええ」  ──よく言った!  ヘタレでビビリで他力本願な情けないウサギがなんとか自分の仕事をこなす姿に、九蔵とニューイはサイレント拍手を送った。  ナイスアシストをしたシッポにも拍手を送る。おかげでオオカミも「俺様に任せな!」とウサギたちに背を向け、ゴキゲンで崖を向いた。  原作どおりのいい行動だ。歪みは感じない。このままうまく突き落とすことができれば、きっとこの物語もハッピーエンドだ。  ウサギたちが頷く。九蔵たちが親指をたてる。助走もしっかり。  トタタタタと距離をとって全力疾走。  そして思いっきり、ウサギはオオカミの黒い背中にドーンッ! とぶつかった──……の、だが。 「木の実も魚ももう飽きたしなァ~」 「…………」 「やっぱ肉はいいぜ~。特にウサギは俺様のお気に入り。味は微妙だがウサギイジメが乙ってやつだ。俺様のオヤツになれることを光栄に思いやがれってなもんよォ」 「…………」 「まだかなまだかなお肉ちゃん~」  ウサギーズはオオカミの尻にぶつかった直後、ポヨン、と弾きとばされてしまった。  確かに全力疾走でぶつかったはず。しかしオオカミはぶつかったウサギたちに気づきもせず、崖を向いて美味しいウサギ肉に思いを馳せている。  振り向いたウサギーズは、首をかしげてどういうことだと九蔵たちに訴えた。  いや、九蔵たちとて存じ上げない。  プルプルと首を横に振る。  オオカミを二度見してもう一度どういうことだと訴えられるが、知らないったら知らないのだ。九蔵とニューイは揃って無言でないないと手を左右に振る。 「…………話が違うでござるゥッ!」  現実を受け入れたくないウサギは断末魔の悲鳴をあげ、またしても泡を吹きながらバターンッ! と卒倒した。

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