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一番手のウサギコンビが敗北を喫してしまったので、二番手は早々に非公認リーダーである九蔵が出ることになった。
本来ならトリだろう。
しかし九蔵的には、わざわざ遠回りをするなんてナンセンス。
セオリー通りがダメだったのだから、おそらくもうなんでもありだ。ならさっさと本気で勝ちにいくべきだと思う。
けれど九蔵がそう言うと、当然のようにニューイがダメダメとしがみついてきた。
九蔵は「うおっ」と声を上げ、のけ反りつつ受け止める。
生ぬるいオーラでこちらを見つめるシッポとウサギ。ウサギたちよ。まだ始まってもいないのにそんな目で見るんじゃない。
「行くのかい九蔵~……遊戯室でのイベントは危険もなく全て遊びだとわかっていても、九蔵の背中を見送るには覚悟が必要なのである~……」
「あ、あー、うん。はい。なら好きなだけしがみつくがよい」
「うぅ~……久しぶりの九蔵が生きているだけでかわいくて自動的にニコニコしていたのだが、離れるとなると自動的に辛いものなのだ……!」
「そんな理由でニコニコだったんですかニューイさん」
ビキンと身を硬直させる九蔵。トラブルを前にして意外と楽観的だと思っていたニューイのニコニコの理由が、まさかそれだったとは。
しかし言われてみれば納得である。
何事もいちいち真剣に捉え喜怒哀楽がわかりやすいニューイが、ビルティの困りごとを解決しなければならない状況で、常にゆるへらっと笑っているわけがない。
意図的に笑顔なのではなかった。
自動的に笑顔なだけだったのだ。
(これだからニューイは……お前さんはどこまで俺さんにありがたい仕様なんですかね……)
「たぶん大丈夫。あんま近寄らねぇしやばそうなら逃げてくるし、口で説得してみるだけだからさ。暴力で解決する気はないですよ。自分のウィークポイントはよくわかっていますとも」
「だがシンプルに九蔵と離れたくない」
「行ってきます」
「ご無体なっ!」
行かせたくなさそうな顔で手をワキワキさせるニューイ。転がるシッポ。終わった終わったと駄々をこねて地面に大の字になるウサギ。
個性豊かなお留守番三人衆をしり目に、恋人を振り返ることなく、九蔵は草陰からのっそりと這い出た。
……いや別に、塩対応ではないのだ。さっさと処理してさっさと帰ってくると心に誓い、束の間の無敵モードに入っただけである。
あとちょっと死ぬほど照れてもいる。なぜか。二週間のブランクか。
九蔵は足早にモソソソと歩を進める。
こらそこ、チョロいとか言うな。イケメンであり恋人であり子犬である悪魔様にキューンと鳴かれてやる気にならない乙女系メンクイなど存在しない。千ペリカ掛けよう。
「オオカミ様」
「おうッ?」
「子ウサギが到着するまで退屈でしょう。そのまま少し俺の話をお聞きくださいな」
「おーう。気が利くじゃねぇか」
九蔵は崖を向いて子ウサギを待っているオオカミに声をかけ、まずは苦手な暴力を回避し対話に持ち込んだ。平和的でスムーズな導入である。
「オオカミ様はとても立派なオオカミ様ですよね。俺が見たオオカミ様の中で一番強そうなオオカミ様です」
「くくっ、あたり前ぇよ。俺様は界隈のオオカミの中でも強いほうのオオカミだかんな」
「それは凄い。やはりその体格ともなると、がっつり肉を食べなければ生きていけないタイプのオオカミ様なのでしょう。魚や果物ではひもじい思いをなさるので?」
「いーやぁ? そんな古代のオオカミなんざ滅多にいねぇぜ? 素材も調理法も豊富な時代で、わざわざ生肉食わねぇと生きていけねぇわけねぇだろォが。魚も果物もなんだって食う! うまけりゃイイんだ」
「なるほど。ならなぜ子ウサギをチョイスされたのですか?」
「そりゃあもちろん、自分らの保身のために子どもを差し出す哀れなウサギ共と恐怖に震えるチビウサギを見ているのが楽しいからに決まってるじゃあねぇかッ!」
「いやあんた性格悪いな」
「あぁんっ!?」
しまった。本音が。
思わずぽろっと心の声が漏れてしまった九蔵に、オオカミはビタンッ! と尻尾を打ち付けて怒り心頭に振り向いた。
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