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「!? お、おまっ、ウサギじゃねぇのか!?」 「あー……まぁウサギとは一言も言ってねーですからね。はい」  怒っていたオオカミだが、九蔵を見てガビョンと驚く。  それもそうだろう。ウサギだと思っていた相手が人間で、しかも自分を怖がらずうーむと呆れた顔でこちらを見上げているのだ。  悪魔王の力では悪魔には人間だとバレず悪意のある相手に気にかけられないだけなので、ウサギにもオオカミにも九蔵はきちんと人間だと認識できている。 (っても、このまま襲われたらヤベーな……)  もちろん九蔵は物理バトルが苦手だ。  背後でハラハラしすぎて泡を吹きそうな顔でべそをかいているニューイのためにも、無傷で生還せねばなるまい。  一応考えた九蔵は、主導権を握るべく腰に手を当て「それはさておき、オオカミ様」とポーカーフェイスで目を細めた。 「あんたちと性格が悪すぎやしませんか」 「あッ、あぁんッ? オオカミはみんなこういうもんだろうが! この俺様に楯突こうってンならテメェも食ってやらァ……ッ!」 「はぁ……」 「なんだよそのため息はッ!」 「訂正します。お前さんは頭が悪い」 「なんだよその訂正はァッ!」  九蔵がビシッ! と指をさすと、力に任せて九蔵を攻撃しようと睨みつけたオオカミはなぜそう言われたのかわからずに、ガルルルッと唸った。  うん。怖くない。怖すぎて怖くない。所詮ゲームでよく見るモンスターじゃないか。  ニューイが背後でウサギたちに説得されて苦悩していることなど気づいていない九蔵なので、ふんぞり返ってオオカミを見つめ返す。 「ムカつく人間が! 許さねぇ! テメェなんざこの俺様が一口でッ」 「そういうところが頭悪いってことなんだけどなぁ……」 「!」  吠え掛かろうと老婆を丸呑みできそうな口を大きく開くオオカミは、九蔵の暗黒気味なジト目を前にピタリと動きを止めた。  しめしめ。内心ガッツポーズの九蔵は、顎に手を当て、独り言らしい語調であれれ〜おかしいぞ〜? とばかりに不思議がってみせる。たたみかけようぜ。 「うーん普通わかると思うけど攻撃的にくるってことはひょっとしてオオカミ様……いやでもそんなわけねぇって」 「あ、あぁんッ?」 「ウサギと取引してるはずなのになぜか俺が、いや遊戯室に人間がいること自体おかしいじゃねーの? わかってたら俺のバックに誰かがいることくらいは予想できると思うし? イコール迂闊に攻撃するデメリットが未知ってこともわかると思うし?」 「!!」 「だからやっぱない! 流石にない。わかってやってるとか、まさかあのオオカミ様がそこまでバカなわけねーしなー」 「!!!」 「だってまっとうな理由で俺を言い負かす自信がないからすぐ暴力に訴えるとか小物すぎだろー? 万が一俺を食ったらその未知のバックが出てきて余計面倒だしなーありえないよなーバカだよなー」 「!!!!」 「で、オオカミ様」 「は、はっ」 「俺のこと食べますか」 「は~~ッ!? ンなことしねぇよ頭悪いなテメェ!」  よっしゃ釣れた!  まんまと攻撃をやめて意見交換会フィールドにやってきたオオカミへ、九蔵は内心でガッツポーズをした。九蔵の背後でお留守番三人衆もガッツポーズをした。  ニューイが「ほらね? そんじょそこらのオオカミさんの威嚇が、素知らぬ顔プロフェッショナルで頑なに物の見方がシビアな九蔵に効くわけがないのだよ。九蔵を懐柔する方法はたった二つ、イケメンと友情だ!」とはやし立てる。  そんなニューイはついさっきまで泣きながら「キバを全て抜いておかないともう見守っていられない!」と萎れていた。  手のひらを返すニューイを横目に、ウサギの目が死んでいる。それを見てシッポははしゃいでいる。  閑話休題。 「ガルルルッ……! テメェ、話があるってならさっさと言いやがれ。理性的な俺様が論破してやらァ!」 「じゃ、早速言わせてもらいましょう」  まんまと舌戦に持ち込んだ九蔵は、威圧的に自分を見下ろして傲慢にふんぞり返るオオカミを臆することなく見上げた。  すぅ、と息を吸ってゆらり首を傾げてから、さっくりと口を開く。 「そもそも、ウサギ脅す必要性なくね?」 「へ」  心からの不思議そーうに尋ねた九蔵へ、オオカミはポケ、と目を点にした。

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