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 いやなぜそんな顔をするんだ。  こちとら根底がわからないと言っているんだぞ? わかり合わなければ話し合いなんてできやしないじゃないか。  九蔵としてはファンタジーやメルヘンではまかり通らないまっとうな疑問である。  しかしオオカミはポカンとしたまま、奇妙な生き物を見る目で九蔵を見つめる。 「なんでって、おま、俺様はオオカミだぞ? ウサギを襲わねぇわけねぇだろ頭大丈夫か?」 「それは理由になってない」 「はぁッ!?」 「食物連鎖は自然の理って言うし俺もそう思うけど、あんたは別に肉を食わなきゃ困るわけでもないんだよな? それどころか肉以外にもっとうまいものがあるにも関わらずあえてウサギ生肉チョイス。好物でもこだわりでもなく。もう変態だろ」 「言い方が悪いッ! そりゃそうだけどオオカミはウサギを襲うものって太古の昔からそう決まってんだろマヌケッ!」 「はっ? 理由もなく決まってるからやってるって、そっちのがヤバくねーか……? 若干、いや割と結構引くわ……ちょっと友達になりたくない……」 「友っ、そこまで言うか!?」 「そらそうよ。友達がゲスはリアルで考えると嫌です。まぁ俺も言えるほど友達いないからなんも言えんが、じゃあどんなつもりでそんなことしてんだ? 俺あんま頭よくねーからわかんないんで絶対そうしなきゃいけない必要性あったら教えてください」 「ひ、必要性っ?」 「必要性。あんた個人の」 「個人、っだからそれは、ウサギ共がビビってるのが面白いのと、面白いついでにメシも確保できりゃイイって思い付きっつか……!」 「は? マジか。計画性皆無でこんな疲れることしてんのか?」 「つ、疲れることっ!?」 「疲れるだろ? だってこうやって生贄待ってる間にウサギが村ごと引っ越したら、なんの成果も得られませんでしたーって終わるよな? そんな計画のためにわざわざウサギ村まで行ってひと暴れしねーとダメで、そのために脅し文句考えてウサギたちが子ウサギを持ってくるまでただ待つだけとか結構な苦行じゃねーの? 絶対持ってくるとも限らないのに?」 「へ!?」 「俺さん的にはどう考えても効率悪い……あ、ごめん本気でわかんなくなってきた。え? わかんねぇ。お前さん、マジでなにがしたいんですか……?」 「や、やめろッ! そんな目で俺様を見るなッ! ドン引きした目で見るなッ!」 「いやだって、手間暇かけてそんなに美味しくもないウサギ肉を子ウサギ三匹ぽっち手に入れたい意味がわからん……時間と労力無駄遣いした割に合わねーと思う……むしろ腹減ると思う……」 「珍獣を見る目でも見るなァァァァッ!」  オオカミは絶叫した。  しかし九蔵は止まらない。もうどうしたって止まらない。あまりクドクドと意見を言うタイプではない九蔵は、一度言い始めると全てを言うまで終わらないのだ。  疑問が解消するまで、無自覚にずっと俺のターン状態である。  その口撃や──実に半時間。  まじりっけのない純粋な疑問をぶつける九蔵とガオガオと吠えてかかるオオカミは、己の弁論スキルだけを武器に生討論する。  そして、その結果。 「──ってことで、俺は説得して和解する前に、お前さんがどうしてウサギ肉をこんなめんどくさい方法でゲットしなきゃいけないのか把握しておこうとしたんだけど……」 「うっ……うっ……」 「明確な理由はないんだな?」 「うぅ……はぁい……」  泣かせた。  思いっきり泣かせた。  性格の不一致の極みこと欲に忠実なオオカミと目線がシビアな人間の意見交換会は、鉄壁の理詰めにより、九蔵に軍配が上がった。  ちなみにだが、九蔵には論破する気なんてサラサラない。  むしろ理解を深めるための質問攻めであったことなど、本人以外、この場の誰も知らない解釈違いである。

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