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九蔵たちが歪みを一つ正している頃。
魔女男 に囚われた澄央とこき使われるビルティがいるはずの世界にて──
「こ、こんなの……おかしい……っ」
──魔女役になってしまった小悪魔アニキ(以下魔女ニキ)は、赤く染まった両手を見つめ絶望に震えていた。
こんなつもりじゃなかった。
彼はある日突然遊戯室のカケラたちがかき混ぜられたことで、旅立ち屋の陽気な店主から魔女ニキになってしまったのだ。
しかし魔女ニキは遊戯室のキャラクターではなく、悪魔王の小悪魔である。
世界が歪んだことに気がついても、役目は変わらない。なにが起ころうが、自分はいつもどおり悪魔王の代わりにこの遊戯室へやってくるプレイヤーたちにつつがなく物語を楽しませるだけだ。
故にヘンゼルちゃんとグレーテルちゃんの世界では、強制的に着せられていた魔女ローブをひるがえして魔女の役目を全うする。
それだけだった。
それだけだったのに──これは、どういうことだ?
「間違ってるよ……こんな世界……っ」
くっと拳を握る。冷や汗が止まらない。青ざめていく頭がもうやめてくれ! と泣き叫んでいる。
こんな物語は知らない。
こんな物語があっていいわけがない。
「こんな世界歪んでるよ────ッッ!!」
「うーん満腹ス。こんなにたらふく食ったのはクリパ以来ッス。ごちッス」
「ナス、もういい? もうオチしていい? 捕まって食べたからもうオレできるぜ。オレできる」
「ん? ミートスパ食ったらいっスよ」
「魔女、トマト早く」
「聞いてくれよ────ッッ!!」
トトトトトトッとなかなかの包丁さばきでトマトをみじん切りにしながら、魔女ニキはヒィンと男泣きを見せた。
それもしかたがない。
なんせ物語通りに話を進めようとしているのはなぜか悪役のはずの魔女ニキで、物語を正しに来てくれたはずの澄央とビルティが全く状況に寄り添う気がないのだ。
一応本人たちは本気で正そうとしている。実際逆らう気はなさそうだ。
しかしいかんせんマイペースが過ぎるので、見ているこちらがツッコミを入れざるをえなかった。
おかげで強制クッキングファイトである。用意してあるお茶菓子じゃあ一日しかもたなかった。
カケラはカケラごとに時間の流れが変わるので、澄央を監禁してビルティをこき使うことこの世界では一週間が経過している。
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