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「つかヘンゼルくんマジリスペクトッス。こんなもてなしくらって食わねーとか仏スか。俺なんか即落ち二コマ。ヘンゼルくんパネェ」  その間、檻の中で悠々自適に暮らすヘンゼルくんこと澄央。  太らせて食すという目的のために運ばれる食事を誤魔化すことなくたらふく食らっては、暇だと言って檻の中で運動する。  役目柄監禁しなければならないとはいえ所詮小悪魔な魔女ニキの倫理観でトイレもシャワーも用意してあるため、運動の汗を流しては衣服も自分で洗濯していた。  快適か。  洗濯中に全裸で寝るのはやめてくれ。  ちなみに澄央、どんな代謝機能を備えているのやら、どれだけ食べても太らない。よく食べてよく動きよく眠る。  本人曰く「俺、太らない体質なんスよね」らしい。  世の中のダイエッターに寝首をかかれても庇ってやれない所業である。 「ナス、オレも。メシ食ってない。トカゲご飯大丈夫。トカゲ燃費イイ。ほらイケメン。ほら美人さん。ほら」  そしてそんな澄央を指示していないのにかいがいしく世話していたのが、グレーテルちゃんことビルティだ。  全裸の澄央をガン見し、魔女ニキが用意した食事をせっせと運んでは、ナスナスと鳴いて手を握らせていた。  澄央もよくわかっていないと思う。  しかしツッコむ気はないらしく、食事をしながらぬぼーとビルティの手をニギニギと握っていた。  わからない。  魔女ニキにもビルティがなにがしたいのかわからない。  というか怖い。ビルティが怖い。  常に薄ら笑いでなにを考えているのかわからない上に会話が成り立たない。  澄央に料理を持っていく役目を奪おうものならチロチロと舌を出して細い腕で肩を抱き、シリアルキラーのごとき表情で「オレの。……ね?」と囁いてくる始末。サスペンスホラー過ぎる。  かくして、冒頭のセリフ。  この一週間、隙あらば脅しをかけてくるグレーテルちゃんと食っても食っても太らないヘンゼルくんの相手をしながらひたすら料理を作り続けていた魔女ニキは、限界を迎えた。 「ナス、ナス。物語オチもうすぐ。正せる思う」 「進捗よいです?」 「よい。トカゲ頑張ってる」 「お、そッスね。結局俺は根っから甘えん坊なんで、ビルティにまかせっきりだったス。面目不甲斐なし。ありがとうス」 「ククク。なでる?」 「なでるス」 「ククク!」  呑気な二人組を横目に、魔女ニキはいつぞややってきた、珍しく個性も主張も薄めのヤギマスクアリスちゃんを思い出す。  ──あぁ、あの客人が恋しい。  ──予想外の挙動を起こさないという安心感がほしい。  こいつらそんじょそこらの歪みより歪んでいるぜ! と、魔女ニキはミートスパゲッティを作りながら嘆くのであった。

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