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 それから澄央が提供されたミートスパゲッティをキレイにたいらげたあと、物語はエンディングを迎えることになった。 「ちょいちょいちょいちょぉぉぉい! 終わりの時だけ展開早すぎるんだぜ!?」 「? 早くない。そういうストーリー」  さっさと話を終わらせたいらしいビルティがサクっと魔女ニキを捕らえ、無理矢理オーブンの前へ引きずって行ったのだ。  散々クッキングファイトをさせられ怖い思いをした魔女ニキは、いきなりエンディングに持っていかれてバタバタと暴れている。 「確かにヘンゼルくんとグレーテルちゃんのエンドは、魔女の黒焼きスけど……」  それを檻の中から見ている澄央は、ポリポリと後頭部を掻いた。  ビルティは物語を正すため、そして澄央のために魔女ニキを捕らえてエンドに持っていこうとしているのだろう。それはわかる。  澄央だって抵抗せず大人しくヘンゼルくん役をこなしていたのは、この物語を正しいエンドに持っていくためだ。  しかしこう、なんだ。  気が進まない。 「俺あんまグロいの好きじゃねーんスよねー……」  ポソリと呟いた澄央はおもむろに立ち上がり、隙間が大きすぎる檻の鉄棒の間からカニ歩きでよちよちと出た。  檻あるある。明らかに出られそうな隙間。空気を読んでいただけである。  そうしてギャンギャンと吠える魔女ニキを細腕で容赦なくオーブンに押しやっていくビルティの肩に、ポンと手を置いた。 「! ナス? まだ出ない。終わり違う。流れ変わる。オレこれ焼くから待ってて。すぐだから待ってて」 「俺をすぐ焼くのはやめてほしいのだぜ!? あ、悪魔王様! 悪魔王様ーっ!」 「うるせ。悪魔王様迷惑。ナス待ってて」  バタバタと暴れる魔女ニキを捕まえたまま、ぷるぷると首を横に振るビルティ。  澄央より頭一つ小さいのに凄い力だ。なるほど、トカゲは強い。  強いが、思考回路がぶっとんでいるので澄央のサポートが必要だろう。人間らしいサポートが。 「ビルティ。魔女ニキ焼くのやめにしねースか? 俺グロとかあんまなんで」 「え」 「! 食いしん坊~!」  なのであっけらかんと提案すると、ビルティは薄ら笑いのままクリ、と首を傾げた。  助かったとばかりに目を輝かせる魔女ニキに目もくれず、視線でなんで? どうして? と訴える。  なんでと言われると個人的に生きたままオーブンには入れたくないということで、どうしてと言われると自分が嫌だから普通に阻止しているに過ぎない。  特に大層な理由なんてないので、そう説明しながらビルティの頭を大きな手でモスモスと軽く叩く。  しかし気持ちよさそうになでられていたビルティは、ふと視線を下げ、心なしかしょんぼりと気落ちする。 「物語通りする。べき。……オレはキャラクター。それが正しい思う」 「ん? これ決まってるんスか?」 「決まりない。ルールあるけどプレイヤー次第。変わることある。でもオレキャラクター。変える権利ない。トカゲ外出たは、悪魔王様いい言った。魔女殺さない。いい言ってない。オレ、ホントはここから出るしないから。キャラクター遊戯。遊戯は遊ばない」 「ふーむ……よくわかんねースけど、決まりじゃないなら別にいいでしょ? 物語なんか適当に都合よく変えてやりゃあ」 「っ……」  澄央がケロッとそう言った途端──手を乗せていた緑の頭が、ビクリと硬直した。  珍しく薄ら笑いも浮かべていない。  目を丸くして澄央を見上げる綺麗な顔。  どう見ても男なのだが品のある顔が、ビー玉のような瞳で澄央を映し出す。

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