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「正すのに、変える?」
「もち。この話のエンドは〝そして幸せに暮らしました〟ス。魔女を焼くかどうかは関係ないス。魔女に勝てばいいんスから。あとはこっちの自由スよね?」
「あ、でも、魔女ナス捕まえるした。物語通り。ナス助けるはいや違う?」
「? いや違うスよ。俺が魔女焼きたくねーから変えるだけだし。ビルティだって焼きたくて魔女ニキ焼くわけじゃねーでしょ。俺らの作戦名は気持ち大事に」
「オレの気持ち? ……は、ナスの」
「え? いや、俺の気持ちじゃなくてビルティの気持ちスよ」
「ナスの」
「急募ココさん」
ビルティはしょも、と眉を下げた。どうも解釈が違ったようだが「ナスの」の三文字では解読できない。
困り果てたが、じっと訴えるビルティがなんだか迷子の子どもに見えて、澄央はワシャワシャとビルティの頭を乱暴になでくりまわした。
──澄央には、ビルティの言うことがずっとよくわからない。
さっきの話も、なんとなくでしか理解できない。だから、思ったことを返す。
割とどうでもいいのだ。せっかく物語の中に入れるのなら、内容だって思う様に変えてやろう。ご都合展開上等。
キャラクターだと言われたって、澄央が〝ビルティというトカゲがいる〟と認識すればビルティはただのビルティになる。だってそう決めたから。
澄央はワガママ甘えた四男坊だった自分の幼い頃を、思い出す。
兄たちのお下がりの絵本に文句を言わなかった代わりに、澄央はペンを片手にフンフンと好き勝手していた。
シンデレラのドレスをズボンに変えて、赤ずきんくんと訂正し、声の出ない人魚姫に「あたいがにんぎょひめよ」とフキダシをつけた。
しかし罰など受けていない。
強いて言うなら両親にはゲンコツを受けたが、そんなものは慣れっこだ。
ほら、なにも問題ないだろう? 問題があるなら、あとで適当にまた書き換えてやればいい。
何者だろうが意思がある以上、物語はそれらの意思により変わるに決まっている。
「ってことで、ちゃちゃっと変えましょ。俺らが幸せに暮らしましたエンドなら正しい物語になるんスから」
「……ぅ、……うん」
「よし」
ポンポンと最後に頭を優しくなでてからピコンと指を立てて提案すると、ビルティは元通りの表情に戻って頷いた。
ニマ、と三日月が浮かぶ。
これでこそビルティだ。
気持ち前よりニマニマ度が増している気もするが、減るよりいい。ニマニマどころか腰に両腕を回してしがみつかれたが、役得なのでいい。ハッピーエンド。
「ククッ……クククッ……」
「さて新しい流れ考えねーと」
「考えねーと」
「俺的に〝魔女ニキは改心してヘンゼルくんとグレーテルちゃんにお土産のお菓子をくれました〟ってな展開でどスか?」
「イイ。ナス全部正解」
「おっしゃ。……けどビルティその発言、ココさんとニューイのハイブリッドを彷彿とさせるスね。好感度補正と素直発言」
「ククッ、嬉し。オレアリス好き。黒ウサギリスペクト。ハイブリッド」
「やったぜ。俺は俺を甘やかしてくれる人好きス」
「ククク!」
喜ぶビルティと合意した澄央が顔を上げて「魔女ニキもいッスか?」と尋ねると、ビルティから解放された魔女ニキは、なぜか口元を押えて気配を絶っていた。
「なんで?」
「もご。いや、冒険の旅立ちの日に等しい運命的な瞬間を見ちまったなぁ、と」
「? よくわかんねス」
「まぁ気にすんな。お菓子やるからどっか見晴らしのいい丘にでも行って二人でピクニックしてこいよ。俺は本来旅立つ者をサポートする旅立ち屋の店主なんだぜ? 今なら旅立ち記念で全部タダだ!」
「ま? 愛してる」
「すまん食いしん坊それは言わねぇでくれ焼かれちまう」
「いや焼かねースよ」
「ククク」
「焼かれちまう」
「よくわかんねス」
──そんなわけで、見事解決。
澄央とビルティのマイペースコンビは、キャラクター不在で放置されていたヘンゼルくんとグレーテルちゃん世界の歪みを正したのであった。
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