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 その後──黄昏時。  両チームはなんやかんやでいくつかの物語を正し、なんやかんやで遊戯室の(ひず)みを修正した。  時間の流れが特殊な遊戯室。実際の時間では一日も経っていないが、疲労度は数倍である。  なんせ歪みは癖が強い。  赤ずきんちゃんのオオカミは食あたりでべそをかき、オオカミおっさん少年のオオカミは嘘吐きなおっさん少年に同情して一緒になって飲んだくれる。  オオカミと七匹の子ヒツジのオオカミなんて、原作を三倍悪化させたような性悪詐欺師だった。  もうオオカミ。  もうオオカミいい加減にしろ。  なぜかオオカミオンリーおバグりだった歪みに、闇堕ちしかけた九蔵だ。  隣であわあわと慌てながらあの手この手で九蔵の機嫌を盛り上げようと迷走するシャイニングイケメンがいなければ、どうなっていたことか。悪魔に感謝してほしい。  対する澄央とビルティは、オオカミではなく魔女にばかり出会ってきた。  しかし困った魔女ではなく、切れ味の鋭いツッコミを会得した魔女ばかり。  マイペースコンビがマイペースすぎて、常識のある魔女たちは皆ツッコミに回るしかなかったのである。  そんなわけで、無事帰還。 「アリス! アリス!」 「ゴフッ」  げんなりした九蔵がのそのそと廊下に出ると同時に、突然ニョローン! とビルティが飛びついてきた。おのれはびっくり箱か。 「アリス? アリス! ねぇ聞いて? オレ話するいっぱいあるよ。まぁだいたいナスの話。トカゲの話ナスの話」 「わかったわかったっ。わかったから絞め殺すのはおやめください……!」  死にかけた九蔵は、上機嫌のビルティの後頭部をモスモスとなでる。まるで学校帰りの小学生だ。ママはいくらでも話を聞きますよ、と。  九蔵とビルティが戯れている間、同じくニューイが合流と同時にいそいそと澄央に駆け寄った。 「真木茄 澄央! 聞いてほしい! お弁当の玉子焼きに切れ込みがあってちょい足しアイテムが挟まっていた!」 「あ、それ俺もニューイと語ろうと思ってたス」 「おおっ! 以心伝心だね!」 「盟友パワー。ココさんニューイのこと考えすぎて玉子焼きレシピの幅だけパネェスからね。俺もご相伴にあずかりうまうま」 「そうなのだよ! 極めつけにはヒヨコの玉子焼きが……っ!」  ニューイと澄央はこぶしを握って熱くランチについて語り始める。  グレードアップしたお弁当について、よほど語りたかったらしい。 「猫ちゃん玉子もあったス。玉子焼きのバリエを増やすことに重きをおきすぎたせいでニューイが千歳越えの悪魔ってこと忘れてるココさんマジココさん」 「かわいい!!」 「あと地味におにぎりの具も多種多様になっていくとこが愛いス……俺の愛するおにぎりラインナップが豊かス」 「九蔵は真木茄 澄央のためにせっせとおにぎりレベルを上げているからね。おにぎりがあるのにサンドイッチも作っているのは、真木茄 澄央の栄養面と炭水化物欲に考慮しているのである」 「俺もうココさんちの子になりてぇ」 「ウェルカムなのだよ! しかし九蔵は牛肉コロッケにナスミンチを混ぜておくようなママだが……」 「コ゛コ゛さ゛ん゛ッッ!!」 「真木茄 澄央が吠えた!?」  前かがみに唸りながら「俺ナス嫌いって言ったのにココさんッ! またやられたッ!」と澄央は地団太を踏む。  九蔵は聞こえていないフリだ。ナスが苦手な澄央の食事に、九蔵はいつもひそかにナスを紛れ込ませている。  気づかないようにさり気なく味と食感に慣れさせておけば、いざナスを食べた時に「あれ意外とイケるぜ?」と思わせられるかもしれない。シャイで策士な九蔵の地味な魂胆だった。  閑話休題。  そうして愉快な人外二人が聞いて聞いてと人間二人に絡んでいた時だ。 『──任務が完了したにも関わらず揃いも揃って報告に来ないとは、色ボケもたいがいにせよ』 「「ふぎゃんっ!」」  いつの間にやら現れていた唇コウモリから悪魔王の声が聞こえたかと思うと、ニューイとビルティの頭上に大きな金タライがゴチーンッ! と落下直撃した。  待て待て、金ダライとは思えない重厚な音が聞こえたぞ。パーフェクトイケメン頭がもげてもおかしくない。

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