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九蔵と澄央はギョッ! と目をむくが、悪魔王は知らん顔(唇)だ。
しかし任務を命じられたビルティとその助っ人をする条件で放逐されたニューイが報告を怠ってトークタイムと洒落こんでいたのが悪いので、フォローはできない。
九蔵と澄央はプルプルと震えながら両チームの報告をする人外ズに、そっと両手を合わせておいた。役に立たない人間二人はただ黙して合掌するのみである。無念。
「しっかし色ボケて……悪魔王様には一連の騒動、全部バレてる気がする……」
「同意ス。でもニューイは色ボケとして、ビルティは色ボケてねースよ? 出会った時からあんな感じス」
「そりゃほぼ一目惚、んん。まぁほら、テンション高くて浮かれてんのは一緒だからじゃないですかね」
「? 確かにス」
痛いところを突かれた九蔵がしれーっと誤魔化す頃にちょうど報告が終わったようで、悪魔王は『大儀であったな』と色ボケ二人を労った。
労われた二人はほっと安心している。
おそろいの立派なコブは見ないふりをしておこう。よその事情に口出しはなしだ。
ニューイたちから報告を聴き終わった唇コウモリは、パタパタと九蔵に近づいた。
『クゾウ、再び苦労をかけたな』
「あ、いえ。今回は自分が納得して来たことですからね。あとはもともとビルティに、俺が先に借りてたんで」
『だがあくせくと働く羽目になっただろう? 契約悪魔ではないビルティの頼みで無償労働。契約を重んじる我らは、対価にうるさい』
「そういう文化なら大人しく労われておきますが……個人的には労働とは違いますよ。これは、あー……趣味みたいなものです」
『趣味? フッ、クハハッ! 悪趣味だな! 相変わらず愉快なクゾウめ』
そんなに笑わなくても。
愉快認定されても嬉しくはない九蔵は、苦笑いで対応する。
九蔵の下手くそな笑顔をクククと笑った唇コウモリは続いて澄央に近づき、うろ覚えの名前を呼んだ。
『スオーとやら。見ず知らずのトカゲに付き合いここまでの助力、感謝する』
「全然いっス。俺、友情に厚いんで」
『友情?』
「そう。トラブル解決の協力は、ビルティは俺がメシに夢中だった間ピンチな俺のフレンズの味方になってくれたって聞いたからス。ただの俺の意思ス」
『ほう……己の意思は尊きものよ。なにより優先すべき宝であるな』
「んで拾ったのは、あの時ビルティ拾う余裕と気力があっただけスね。なかったら無視してたス。たぶん」
『ククッ……お主、クゾウと同じようなことを言うのだな。クゾウの友らしい』
「流石キング。お目が高い」
九蔵の友人と言われた澄央は指をパチンと鳴らし「なにを隠そう俺がココさんのニコイチッス」と誇らしげに胸を張った。
悪魔王は愉快げに笑う。澄央の無敵コミュ力は悪魔王にも有効だったらしい。
九蔵とニューイが仲良くなってよかったと頷くと、ビルティは九蔵とニューイの間に頭をねじ込む。独特な不貞腐れ方をするな。
『さて愉快な者どもよ』
四人と各々話を終えた唇コウモリは、パタパタと高く飛び上がった。
『我はなによりも優先すべき趣味がある故、褒美は明日取らせよう。残るなり帰るなり自由に過ごすとよい』
「「…………」」
『と、言いたいが、それではこのビザも人間らしさもない悪童どもが納得せんだろう?』
「「!!」」
『今宵はニューイの屋敷でビルティもろとも夜を明かせ』
悪魔王がそう言うと、「帰るなり」のあたりで絶望的なオーラを醸し出していた色ボケ二人が、パァァァ……! と喜びのオーラを放った。
九蔵と澄央はキョトンと顔を見合せ、同時に無言のままガバッ! と両腕をあげる。よっしゃーのポーズ。
なんやかんやで悪魔王は懐が深い。
これでニューイと離れずに済、……明日のご褒美が楽しみだ。
しかし喜びのオーラを出すニューイとビルティを前に、悪魔王は『言っておくが』と続けた。
『我は今お主らに恩を売ったのだぞ? ニューイ、ビルティ』
「「…………」」
『己の名のもとにしかと返せ。この悪魔王に相応しい値段で、な』
……悪魔の王は、やはり悪魔らしかった。
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