374 / 459
374
そんなわけでお泊まり会をすることになった一行は、悪魔王の直通便でニューイの屋敷に移動した。
時間的には夜の帳が降りた頃。
談話室にて。
「ナス、前に恋人欲しいって言ってたよな」
「お、よくぞ覚えてくれていた」
フワフワと浮かぶソファーにだらりと身を預ける九蔵は、同じようにだらけている隣の澄央に恋バナをふった。
澄央とビルティ。
どちらかが知り合い程度なら親愛度贔屓でそちらを優先したのに、どちらも友人と恩人ならただ幸せになってほしい。
そこで澄央の気持ちも確かめておこうと決めた九蔵は、雑談を装って探る魂胆だった。
それに澄央、実は恋バナ好きである。
乗ってこないわけがない。
ニューイとビルティは少し離れた下方で夕食のメニューを話し合っていて九蔵と二人きりのようなものとなれば、澄央のアンテナもゆるゆるだ。しめしめ。
「彼ピ欲しいス。でも男同士って体の付き合いは割とすぐスけど、恋人ってなるとマジな付き合い方はなかなか」
「あ〜わかるかも」
「あと俺の理想って高めなんスよ」
「それは知らんかった。どれくらい?」
「ひとつ、顔がいい。ふたつ、メシ作ってくれる。みっつ、昼間にシラフで手ぇ繋いで気楽にデートしてくれる」
ニヤリと笑って理想が高いと言う澄央が、指折り数えて理想を語った。
九蔵は澄央を眺めてふむふむ頷く。
「よっつ、いつどこで誰に恋人は誰だと聞かれても真木茄 澄央だと答えることを約束する。以上」
「だけ?」
「そス。でも最後破ったらすぐ別れるんスよ? マストコミット」
「うーんそれは理想っつか普通だよな」
やけに脅し文句のような言い方をされるが、それほど無理難題でもない。
そう思って首を傾げるが、澄央は「わはっ」と笑ってゴキゲンに親指を立てた。
「マジそゆとこ最高ス。これだからココさんのズッ友って居心地いいぜ」
「ちょっとよくわかりません」
「メンクイバレはこそ泥並みに隠すくせにそこらへんはノーガードスね、て話?」
「そこらへんて。そら俺は友達あんまいねかったからな。女の子にもモテねーし……男も好きなのバレて離れられても困る人いないならガードしません。疲れる」
「カッケ。ちなメンクイは?」
「社会人時代のすったもんだなトラウマ二割、愛するイケメンたちにバレてドン引きされてきた人生のトラウマ八割」
「イケメンの比率高すぎスわ……」
いっそリスペクト、と真顔でパチパチ拍手を送る澄央。
当たり前だ。憧れかつ目の保養なイケメンたちの嘲笑なんてただのギロチンである。これまで落とされた九蔵の首の数は両手の指じゃ足りないのだ。
「てか俺の話はいいの。ナス、その理想フルコンプするイケメンに好かれたら恋愛リベンジマッチすんのか?」
「そりゃそうスよ。いねースけど」
「とも限らん。ある日突然玄関ドア破壊してドストライクイケメンと同居する可能性は大いにありますぜ」
「説得力がダンチ」
雑談をよそおい澄央の理想のタイプを聞き出した九蔵は、ニマァと笑顔を見せた。
絵面だけならただのマッドサイエンティスト。これから人体実験でも始めそうな顔だが、ビルティに可能性がありまくるとニヤケかけたにすぎない。
「でもまぁ、そういうのあったらテンションあがるス」
ほほう? 詳しく聞こう。
呑気に頭の後ろに腕を回しつつそう言う澄央に、九蔵は指をちょいちょいと挑発的に曲げて見せた。指先をちょんとくっつけられる。某宇宙人ごっこはしないぞ。
「いやだって真面目な話、バカ羨ましいス。思春期から周りのヤツらみんなやれ彼女だ彼氏だで、俺も彼氏ほしース。んでダチに紹介してース」
「ふっ、紹介目的かい」
「ドヤりてぇもん。あ、俺の未来の彼氏とココさんらが仲良くなれたらダブルデートしましょ。デデニーは前にズーズィと四人で行ったんで、ユニバ行きましょ」
「それは前向きに検討いたしますが、ナスくん今好きな人すらいませんよね?」
「イケてるメンズが好きス」
「うん俺もだけどマストアイテムは取得してから誘ってください」
九蔵がやれやれと呆れたジト目で見つめると、澄央は「どっかにいい男落ちてねぇスかねー」と不貞腐れ気味に唇をとがらせた。
そんな澄央を横目に、九蔵は密かに任務達成の息を吐く。
まさか理想のタイプから恋人願望、好きな人の有無までさり気なーく引き出されたとは、思ってもいますまい。
お兄さん。
爬虫類でよければイイコいますぜ?
九蔵は夕飯のメニューを決める──フリをして聞き耳をたてていた二人に、グッと親指を立てた。さぁ、男を見せるのだ。
ともだちにシェアしよう!