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第九話 スパダリ戦争 〜夏〜

 突然だが、ニューイはモデルである。  九蔵曰くドストライク超絶美形だがその正体はツノ骸骨種悪魔であるものの、一応人気のモデルである。  見た目に対して中身が紳士的な子犬なので親しみやすさも抜群にイイ。  社内での評判はダントツ一位だ。  しかし今どきマストのSNSはしていないし雑誌やウェブサイトのみの露出なので、世間的な知名度は低かった。  それに、ニューイの担当はターゲット層が社会人以上であるブランド部門に限られている。顔立ちやサイズ感がそこはかとなく和風ではないせいだ。  性別が同じなだけで自分とかけ離れた男というものは、憧れでしかない。  故に社外での親しみやすさは、最低であった。基本陰気な彼の恋人なら激しく同意してくれただろう。  コツコツ控えめーな筋トレを続けているくせにてんで筋肉がつかない哀れなヒョロ長ガリ蔵を思い出し、プププと笑う。  とはいえ、ニューイがモデルをする服は、売り上げがいい。  小顔で黒が似合うスタイリッシュな雰囲気は、高い身長で見栄えがする。写真で判断する雑誌やウェブサイトでは見栄えが最強。衝動ワンクリックや店舗への誘導率が高い。  悪魔の魅了効果はチートだった。  人間に抗える代物ではないので当然だが、ニューイは人タラシ。ワンパンだ。  となると否が応でも、社長としてはニューイのコンディションは常に最高を保っていてほしいわけで。 「オマエマジで絞め殺していい?」 「な、なぜ!?」 「写真写りクソだからっしょ言わせんな荒めのヤスリですりおろしたくなるからっ!」 「なぜーっ!?」  ふたりきりの控室で半べそのニューイを追い込みながら、ズーズィはニューイの足の小指をグリグリと踏みにじった。  いじめられ慣れているニューイは抵抗せずに「せめて紙ヤスリを使ってほしいのだよー!」と涙目だが、ゴキゲンがナナメのズーズィは悪魔王以外の万物をいじめるいじめっ子である。心得ているニューイに逃げ場などない。  しかしズーズィに言わせれば、それもこれも全てニューイの自業自得。 「キレ散らかす前に一応聞いてやんだけど、ニュっち暑いの苦手じゃねーじゃん?」 「う、うむ。この国の夏の暑さは殺人級だが、悪魔が死ぬほどの気温ではないである。マグマのほうが幾分ホットだよ」 「人間に(たか)られんのもモデルの服着んのも写真撮られんのも好きっしょ?」 「それはもちろん大好きさ。人間の挨拶は写真撮影。撮ってもらえるのは仲良くしてもらえる合図のようで嬉しいぞ」 「じゃあ仕事大好きだよね」 「う、うむ」 「ボクのこと愛してるよね」 「う、うむ」 「ならボクの言うことは絶対だよね」 「う、うむ?」 「うむ? じゃないよ? ボクはニュっちの幼馴染みで大大大大大親友のズーズィ様でしょ? 愛してるなら絶対じゃけぇよがな」 「! うむ! よがである!」  幼馴染みで大大大大大親友と言われてパァ! と満面の笑みを浮かべながら元気よく頷くニューイは、チョロかった。  ぼっち歴千年。ズーズィのひしゃげた友情に弱いニューイはデレデレだ。  謎の広島弁にツッコミも入れない。なお九蔵相手だと視界の中に存在しているだけでデレデレしている。  そんなデレデレ属性のニューイを千年カワイイやつめといじくってきたズーズィ。  腰に両手を当ててぐっと半身押し迫り、にっこりと笑う。 「──じゃあなんで死にかけのナメクジみたいなオーラ出しながら撮影してんのマジありえねんだけど生革剥いでちゃっちいハンドバッグ仕立ててほしいわけッ!?」 「あだだだだだだッ!」  幼馴染みで大大大大大親友だが全くカケラもデレデレ属性ではない傍若無人属性のズーズィは、小指を踏み潰していた足を高速で半回転し始めた。

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