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「夏場に冬服の撮影ノープロブレムならフレームインしてる間だけ生きてくんない!? その後好き勝手死んでいいからカメラの前ではゴージャスでカリスマ性のあるオーラ出せよ得意でしょハーレクイン系なんだからさぁ! ワンランク上の冬の男の勝負服っていうコンセプトがブタに真珠じゃん!」
「待て待てこれ思ったより痛いすごく痛い骨にグっとくる骨にッ!」
「スタイリッシュに! 余裕の振る舞い! クリスマスシーズンでもあえてお一人様みたいな! わかる!? 三歳児向けに言ってんだから二秒で理解して!? オマエのさっきの立ち方と顔とオーラじゃタイトル〝クリぼっちの非モテ童貞決死のオシャレ失敗エンドの図〟でしかねぇから!」
「今は〝ニューイとても痛いの図〟でしかないのだがッ!?」
「知らんわ先にボクのお願い聞かなかったナメクジの言うこと聞けんわやめてほしかったら反省しろしオマエがクーにゃんとメシ食えるように撮影時間多少考えてやってんの誰だと思ってんのマジ未来永劫崇め奉ってくんね!? 外撮影とか県外ロケ地とか早朝出発基本よ!? 悠長に朝メシ食ってから重役出勤許してるボクにせめて恩返ししようって馬車馬のごとく働け色ボケしゃれこうべッ!」
「あ〜〜〜〜ッ! しゃれこうべは物理攻撃に弱いのである〜〜〜〜ッ!」
──押しも押されぬ大手ファッションブランド・プレイバックマウス。
その本社撮影スタジオ控室の一室から響き渡るビブラートの効いたハスキーな美声は、哀れな男の悲鳴なのであった。
十分後。
いかな悪魔とて契約書を交わした勤め人ならば、正当な理由なく上司には逆らえないのが社会の道理である。
「で? ウジっぽい悩み事ならワンパンで解決するけどぉ? それ以外は指さして笑うし全力でバカにする次第〜」
「キミがゴキゲンになってくれて嬉しいよ、ズーズィ」
撮影中にも関わらず萎びていた理由を問い詰めるズーズィは、散々ニューイを罵倒してスッキリだ。
むしろ面倒ごとの気配に機嫌がいい。
ニューイの悩みはすべからく愉快で引っ掻き回しがいがある。
未だジンジンと痛む自分の小指をよしよしと慰めていたニューイは観念し、憂いを帯びたわびしい表情で膝に肘をつく。
「実はすーぱーだーりんになりたくてね」
「ギャハハハハハハハハハハッッ!!」
「そうだねズーズィ。有言実行はキミの美徳さ。私にはわかっていたとも」
宣言どおり指をさしてゲラゲラと笑うズーズィを前に、ガックリとうなだれるニューイなのであった。
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