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 まぁ言い方はさておき、榊は九蔵の働きぶりを買ってくれているのだ。  厨房専門アルバイター。どれだけ忙しかろうが一人で厨房を回す。どれだけ忙しかろうが。忙しくない時は機械メンテナンスと清掃がガチだ。  困った時にとりあえず入れておけばたいていなんとかしてくれる。  そう言って年下の男の顎をスリスリしながら褒める榊に九蔵がプルプルしていると、突然バタンッ! とドアが開く音が聞こえ──店どころか国まで違うようなボンッキュッボンッのブロンド美女が現れた。 「ちょっと聞き捨てならないわぁ~。アタシはあなたの好みになるためにお店で働いてるのに、ツマミちゃんがいないとダメってこと? ねぇサカキ」 「キュ、キュウちゃん」  一時間おきのトイレ掃除をしていた本日の相方、キューヌである。  うまい屋の制服を着ていてもパノラマ角度で美しいキューヌの登場に、榊は一瞬目を見開いたあと、小声で「そうだった……キュウちゃんシフト入ってたんだった……!」と珍しく動揺している。  ニマリと色っぽく微笑みながらカツカツとこちらに歩み寄るキューヌへ、榊は素早く九蔵から手を離した。  さしもの帝王も、キューヌには弱いらしい。  満足そうなキューヌは榊のもとへは行かず、トラブルを持ち込んだ張本人のくせに他人事で一連のやり取りを眺めているズーズィの前に立った。 「チューウちゃん」 「んー? な、あ、に」 「どうでもいいから、ツマミちゃん持っていくならさっさと持って行きなさいな。けどね、あんまりアタシのお気に入りに迷惑かかる持って行き方したら、人間世界から追い出すわよ? ウフ」 「わーお。なんでキューヌがボクに命令すんの? って感じだけど、オマエと喧嘩したらボクが負けるからやーんぴ」 「ウフフ、イイコねチュウちゃん」 「ぐひ、うっげ! ちょ、勘弁。ボクが人間なら死んでもアリクモ種の女には近づかない。マジでムリ。絶対ムリ」  スリ、と頬をなでながら至近距離でうっそりと微笑まれたズーズィは、青い顔をして硬直した。  榊の迷惑になるから九蔵にもあまり迷惑をかけるなと威圧するキューヌが相当怖いらしい。  そういえばキューヌとドゥレドがバイトを始めてから、ズーズィが遊びに来る頻度が激減した。なるほど。悪魔の位とやらは、おおむね物理的な恐怖度で合っているようだ。  自分の周りの悪魔たちの力関係をなんとなく悟った九蔵は、チラリと榊をうかがう。  コクリと頷く榊。  意図は「行ってこい。ただしお前はうちのバイト。引き抜きは厳禁だ。詳しい話はあとで連絡しておけ」だ。上司の意図はここまで読んでこそ重宝される空気読みである。 「……なぁココ。お前曰く、本気で惚れられるととんでもなく一途で粘着質で嫉妬深くて逃がしてくれないのが悪魔なんだろう」 「そうですね」 「参考までに、目の前で他の男をからかっているのを見られた時は、どうフォローするのが一番効果的なんだ」 「あー……、……丸一日」 「丸一日?」 「相手のされるがままで常時密着しておくこと、ですかね」 「……有給取るよ」  そんなわけで密着経験済みの九蔵は、ニューイの職場でアルバイトをすることになった。

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