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「リョーマのような気さくで笑顔のカッコイイ人間の男ならファンもいるだろうが、私にファンはいないさ」
「? なんでですか?」
不思議そうな凌馬へ、ニューイはニヘラと笑い、自分の頭をコツンと叩く。
「だって頭蓋骨が見えていないだろう? ツノ骸骨種の悪魔的には骨の美しさがイケているかの基準」
「お口チャックッ!」
「モガッ!?」
その瞬間、九蔵は素早くニューイの口を手で塞いだ。
プリンススマイルでなにを言おうとしているんだ。凌馬はポカンである。
「はっ? 悪魔的にっ?」
「はっはっは。比喩表現ですよ。ニューイはまだこの国に馴染んでねーから言葉も常識も不自由なんだ」
「お、おう。そりゃしゃーねぇな」
「モガガ〜……っ」
しょーんとしょげた声を出すニューイからそっと手を離しつつ、九蔵は笑って驚く凌馬を誤魔化した。
ニューイはこういうところをサポートせねば、いつの間にか不思議ちゃん扱いされゆるキャラ化してしまう。
なるほど。自分の職務を理解した。
そんなやり取りをしていると、着替えブースからさっちゃんなおちゃんが「おーい」と揃ってニューイを呼んだ。
「次、コラボ用の衣装もう来てるよ! 早く着替えて〜! 凌馬くんもうスタイリング終わってるから!」
「ニューイさん待ち!」
「むっ、いけない。リョーマ、急ぐから待っていてほしいのだ」
「平気ですよ! ニューイさんほぼNG出しませんしね」
呼び出しをくらったニューイは、さっちゃんなおちゃんに手を振りつつ凌馬に断りを入れ、九蔵に向き直った。
それから頬にチュ、とキスをする。
現場ではイチャつかない。
だからニューイは大人ぶっていて、ただ九蔵をなでるようにかわいがるだけだ。
もちろん必要外に腰を抱いたりもしないし、唇は頬に触れてすぐに離れる。……別に残念だとは思っていない。
「九蔵、またあとで。きちんとカッコつけるから、次も特等席で見ておいておくれ。恋人の九蔵だから特別に、なのだよ?」
「了解。ちゃーんと俺だけを見てろよ? 上の空になりませんよう」
「うっ……へ、平気である。全神経を九蔵に集中するとも! よそ見はしない!」
ギクッ、と肩を跳ねさせたニューイは、引きつった笑顔で冷や汗を垂れ流し、そそくさと去っていった。
どうやらスパダリ願望を忘れてはいなかったらしい。
あの調子じゃあ、気を抜けばスパダリを夢見て気がそぞろになるに違いない。
思っていたより重傷である。
九蔵がふぅと息を吐いて壁にもたれかかると、そばで立っていた凌馬が同じくトン、と壁にもたれかかった。
「へぇ。九蔵って束縛キツいタイプ?」
「んや、そんなことねぇと思うけど」
「だって特別に用意された特等席で見てるくせに視線も独り占めさせろとか、結構なこと言うからさ。ははっ──でもモデルは基本カメラ見てねぇと、だろ?」
「え?」
ニコ、と笑顔で言われる。
なんだ。若干トゲが見えた気もする。愛を仕事場にまで持ち込んでニューイを縛りつけているのか? と。
九蔵は内心オロ、と焦った。
いやいや、そんなことはない。
言い表し方の問題で、内容は普通だった。現に凌馬は笑っているし、声のトーンだって話し方だって明るいままだ。
だが愛するイケメンにそういう態度を滲ませられると、九蔵の胸はいつもオロオロとヒクついてしまう。
なぜ? 気を悪くさせた?
直視は避けつつ焦る九蔵は、素知らぬ顔を装いつつも凌馬を伺い肩を丸める。
「くくっ、マネージャーのいらないニューイさんにサポートとか変だなって思ったんだよ。だっていらねーから」
「うん、まぁ、いらねぇと思う」
「だろ? けど恋人なら仕方ねぇよな〜。恋人見学に連れてくるモデルとか割といるんだぜ。カメラのド裏で見るようなやつはいねぇけどよ」
「それは、その」
「くく、特別だから特等席だし職場訪問もできるってスゲェ愛されてんじゃん。それはいいけど、首突っ込むのはね。ニューイさん人がいいし尻に敷かれてる感じ?」
「あ、あぁ……まぁ、そうだな」
笑顔でご機嫌に喉を鳴らす凌馬。
ニューイと一緒にいた時と違い、明らかに粘着質なオーラを感じさせた。
様子が変わらないと思っていたのに、わざと滲ませることもできるとは。
うまく返したいのに有無を言わせない笑顔で粛々と追い詰める凌馬に、九蔵は押されっぱなしで苦笑いをうかべる。
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