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 ニコニコと笑っているはずの凌馬の言葉にトゲを感じる理由が、わかった気がした。  九蔵がここにいる理由。  本当のことは言えないので、九蔵は大人しく肯定する。  恋人がいないとモチベーションが上がらないポンコツ悪魔モデルだから、とは言えないので、表向きは通常業務にコラボ業務が重なって忙しいため、としか言っていない。  サポート役に選ばれた理由が恋人だから、というのは周知しているので、あながち間違いでもない。  なので凌馬に「ファンがモデルと付き合ってコネで入った上にただ撮影を見守っているだけか? 特別なのはお前じゃないだろ?」と思われたとしても、仕方がなかった。  変に反論してニューイが悩んでいることが誰彼と拡散されると困る。  流石のニューイも嫌がるはず。  ああ見えてかっこつけなので恥ずかしがる気がする。 「あー……凌馬、なんか怒ってますか」 「ん? 怒ってない。感じ悪かったらごめんなー。テレビと違う? 思ったこと言うだけだぜ」  そこまで考えて肯定した九蔵が余裕ぶって尋ねると、凌馬はやはり変わりなく笑って腕を組んだ。  困ったことに様になっている。  イケメンめ。できれば攻撃しないでくれ。イケメンに攻撃されるとボディに効く。 「九蔵、拗ねるなよ。別にコネが悪いとは言ってねぇだろ? この業界、コネは大事だ。むしろ財産だと俺は思うね。恋人特権上等! 特別扱いされて当然」 「そりゃ……ありがとさん」 「どういたしまして。くく……あーあ。こんな蛇に睨まれたカエルって感じの男と付き合ってるとか、ニューイさんってマジで凄いよ。ホント、カッケェ」 「っ」  なるべく余裕ぶって返事をすると、喉を鳴らして笑った凌馬が、自分の肩を九蔵のそれにトスンとあてた。  九蔵は思わずビクッと硬直する。  開幕からフレンドリーだと思っていたが、距離感が近い。  それに少ない距離すら詰めるのがうまい。すでに白旗を振りそうだ。 「あの、あのですね……」 「イメージ商売しててさ、なんでもない一般人の男の恋人がいるとか、堂々と言えるか? 俺は無理」 「あ、あー……あー……」 「一般女性ならまだしもさ。俺が恋人だったらなって夢見てる女性ファンが、みんな幻滅しちゃうじゃん。男がいいって言ったら。だろ?」 「ソウデスネ。ソウデス」  冷や汗タラタラで震える九蔵を、頭を下げた凌馬が上目遣いにチラリと見つめた。  マズイ。顔がいい上に自分の魅せ方がうまいタイプのイケメンじゃないか。マズイ。相性最悪だ。勝てそうにない。マズイ。マズイぞ。  甘い声で語られ九蔵の青い顔色が赤くなり始めると、凌馬はフッと吹き出し、九蔵から身を離した。  ホッと息を吐く。死ぬかと思った。 「でもよ、九蔵」 「ひゃい」  ──が。  次の瞬間には爽やかイケメンの甘いマスクが目の前に現れ、九蔵の顔を覗き込んでいた。返事も噛んだ。ガッデムッ! 「女でもなくて、冴えなくて、ビビリで、かっこよくも美人でもかわいくもないヒョロ長の一般男性と付き合うニューイさん。逆に好感度めちゃアップすると思わね? それを無自覚でやってんだぜ? くくっ、やっぱ最強だよ。王道だし。イケメンモデルとただの一般じーん」 「あぁうん、わかった……実は俺、凌馬さんのファンでもあるんですけど……」 「うっそマジで? スゲェ嬉しい! これはガチ。あとでサインやるよ」 「家宝にします……〝愛が足りない!〟の時からドラマ全部録画して見てます……」 「むっちゃ初期じゃん。マジで嬉しい! これはかなりガチ」 「でも凌馬さん……俺のこと嫌いですよね……?」 「ははっ、バカだな~! 俺がファンのこと嫌いなわけないだろ?」 「え」 「ニューイさんの恋人ってだけの一般人がニューイさんの仕事にちゃちゃ入れんのが気に食わねぇだーけ。これはマジでガチ」 「大嫌いでしたか……!」 「くくっ、だぁから嫌いじゃねえって。たぶん。ふ、利口な九蔵くん」  ニコッ! と笑顔で毒を吐く爽やかイケメンにピキ、とひきつった顔で愛想笑いを浮かべつつ、九蔵は内心でがっくりとうなだれた。  それでも凌馬は顔がいいのだ。  ……イケメンはみんな癖が強い説、あると思います。

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