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  ◇ ◇ ◇  それから恙無く冬服コラボ企画の撮影を終え、九蔵とニューイは控え室へ戻った。  準備がスムーズだったので人手に空きが出て更にスムーズに進み、撮影が早く終わったのである。  九蔵は凌馬とニューイのショットも見ていたのだが、なんというか、凄かった。  ニューイは悪魔だ。  無意識に人を誘惑し、人間に求められている通りの望む魅力を醸し出す。  本人にやる気さえあれば、千年以上の時を生きる悪魔のキャリアが自然にそうさせる。必ず、人の目を惹く。  そのニューイの隣で、人間の凌馬もそれに近いことをやっていた。  プレイバックマウスのデザイナーたちと共に自分がプロデュースした服ということもあるが、それにしたってどの服も完璧に着こなしている。  監督の指示に合わせて表情、ポーズ、振る舞い、オーラを変える。  ニューイと三藤とカメラマンと何度も確認してはあーだこーだと話し合い、満足するまで撮り直した。  聞くと、撮影から打ち合わせ、編集、その他全てに凌馬が関わっているらしい。  凌馬は完璧主義者のようだ。  それがわかると、ニューイの恋人だからサポート役をしている九蔵が気に食わなくなる気分もわかる気がする。  ……とはいえ。 「そうそう! こないだみんなでプロモカットの撮影終わりに行ったとこ!」 「ん! チーズケーキの美味しいあのお店だね! 花畑が一望できるカフェだったからしっかり覚えているぞ」 「あの店俺たちのグループチャンネルでも改めて行ったんスけど、変装するのが結構大変で〜。正直帰りに食べたラーメンの味しか覚えてなかったりするんですよね〜」 「それはいけないな、リョーマ。しかしそのラーメンは美味しかったのかい?」 「激うまッス! ほら、デザイナーの茂出木さんがオススメしてたとこ」 「おぉ、カリスマの彼か……!」 「そッス! あ、つーか気になるなら今度一緒に行きましょうよ。ほらまた監督連れて、撮影の空き時間で地元ラーメン攻めるの会」 「それはいいね。ぜひ行こう!」 「…………」  予定より早く撮影が終わったからと言って、ニューイの控え室に居座るのは是非やめていただきたいのであった。  いやまぁ別に?  別に嘆くようなことではない。  九蔵は雑用があるので参加していないだけ。  知らない人や店が出てきたところで、ゲーム脳の九蔵は文脈から相関図を脳内構築して理解できる。  花畑の綺麗なお店に行ったという話はニューイから口コミされていた。  お土産にとチーズケーキももらった。ホール丸ごとだったので太るのではと怯えて食べた。太らなかった。胃はもたれた。  このように、ニューイは聞けばたいてい答えてくれるし、たいていの情報は自主的に語り聞かせてくれるのだ。  ではわざとハブられているわけでも知らない話をされているわけでもないのなら、気にすることなどなにもない。  はずだ。と思う。たぶん。 (……ただ自分以外の誰かと恋人の話が目の前で盛り上がってるのがモニャララ、とか……言えん) 「それこそ束縛彼氏じゃねーですか」  ボソリとつぶやく。  自分じゃそんな気はしていなかったのにそれをすると、凌馬の形容した通りになってしまうじゃないか。オーマイガ!  九蔵は時給アップと手当をつけられホイホイ引き受けたヘルプ係の仕事をまとめつつ、社内用タブレットを駆使してニューイのスケジュールを確認しながらも、よせばいいのにしっかり聞き耳を立てて口元をへの字に曲げた。  ニューイと凌馬がこちらを見ていないことをいいことに、ムスッ、とわかりやすく不貞腐れる。  平気なフリがうまい九蔵にしては珍しい。  おそらく一年以上ともに暮らすニューイが毎度感情を出してしまっても気にしていない様子だったせいで、受け流す癖が多少緩和したのだろう。  もしくは、受け流せないほど拗ねているか、だ。前者と後者どちらだって? ノーコメント。  二人に背を向ける九蔵の表情は、ムッスー、と見るからにゴキゲンナナメであった。  もちろん大人げない自覚もそれでも大人になれない自覚もあるとも。ムッスー。

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