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それからその次の日もその次の日も。
出勤日はいつも変りなく、凌馬はニューイとことあるごとに仲良く過ごしていた。
基本的にはアイドルとしての活動や他の仕事もありコラボ企画も撮影にミーティングにと忙しい凌馬だが、空き時間はたいていニューイのそばへやってくるのだ。
そして金に釣られて仕事を増やした九蔵とて、職場ではあまりニューイとの時間がない。イコールたいてい合致する。自業自得である。
凌馬はいつもこうらしい。
三藤もさっちゃんなおちゃんもみんな気にしておらず、新参者の九蔵だけがジェラッと小火をくすぶらせている。
ワンチャンあるかと思って恥を忍んで桜庭モードのズーズィにも確認したが、指をさしてケラケラと笑われた。たぶん嫉妬しているとバレた。しかも社長と無駄話をしていると思われて凌馬に働けコノヤロウというオーラを出された。お手上げだ。
ニューイだって恋人になにも問題ないという確認を取ったため、宣言通りいつもと変わりなく凌馬と接している。
接したうえでこれなのだから、二人は間違いなく相互の友人だった。
誰だなにも問題ないとかサムズアップしたおバカなナイスガイは。自分だバカヤロウ。
そもそも九蔵は、ニューイの友人との距離感に文句を言えない立場だ。
なぜって、九蔵には澄央という甘えん坊なズッ友がいるからである。
ニューイが澄央とのスキンシップを気にしないと言ってくれたので九蔵は普段からなんとも堂々とハグをしているし、尻も揉まれている。
同じ職場の年下の仲がいい友人。距離感近めでスキンシップ過多。完敗だ。出るところに出られると勝ち目がない。
比較的ドライで聞き分けのいい恋人。
そう自負していた九蔵は、まさか嫉妬がこんなにめんどうな感情だとは思わず、日々ジト目から光を消滅させ、ひっそりやさぐれていた。
◇ ◇ ◇
本日は休日だ。
目の前で他人と仲良くする恋人を奥歯をギリギリしながらムキーッ! とハンカチを噛みしめたい気分で見なくて済む休日だ。
ご近所さんになった澄央とビルティに〝作りすぎたオムライス会〟に呼ばれた九蔵とニューイは、各々オムライスを持参して澄央宅へ集合したランチタイム。
「九蔵、やはりリョーマとなにかあったのかい?」
オムライスフェスティバルで盛り上がったあとの洗い物をする九蔵に、隣で濡れた皿を拭く係になっていたニューイが、ふと声をかけた。
ニューイから凌馬の話をもう一度切り出されるとは思わず、九蔵は一瞬目を丸くする。
なにかあったというと、なにもない。
初日に推しにチクリと刺されたことと、その刺し傷のせいで全力でいい子ぶりっ子をしていることくらいである。
ニューイにしてほしいこともできることもない話だ。もちろん凌馬にも。
九蔵とて、もし澄央から「ビルティが嫌がるからココさんとお話しねース」と言わると結構なショックを受ける。
「いや? なんもねぇけど」
なので噓偽りなく答えたのだが、ニューイはなにやら喜んで食べたイチゴがすっぱかったような表情で、心なしか唇を尖らせた。
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