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「でも九蔵、仕事のたびにリョーマを気にしているじゃないか」
「あー……まぁ確かに気にはしてるかもしんないけど、ニューイが心配するようなことは誓ってなにもねーですよ。信じてください」
「信じるとも。信じるが、リョーマはその、ええと……う、うーむとにかくカッコイイ男である!」
「? 年単位前からご存じですけど」
凌馬は顔で食べている男である。
顔で稼ぐような人類は画面越しだろうがリアルだろうがどうあがいても抗えないほど顔がいい。当然だ。
というかイケメンだから些細な挙動でも九蔵は数倍気になるわけであり、イケメンだからそれをたいてい許してしまう。
当たり前のことを今更言われて意味がわからず首を傾げると、ニューイはそうだろうともといかに凌馬がいい男かを力説する。
「ほら、九蔵はイケメンが好きだろう?」
「大好きです」
「う、うむ。リョーマはとてもイケメンだし手足も長い。周りをよく見ているし気が利くし、芯があって誰にでも分け隔てなく優しいぞ? それにお金持ちでみんなが憧れるアイドルである」
「は? まぁそうだけども」
「だろう? だからつまりあれだ。私が思うに、リョーマは、あの……すーぱーだーりんじゃないか?」
「あ? あ、あ〜……?」
なんだ。やけに凌馬の良さをアプローチするじゃないか。
そう訝しんでいた九蔵は、スパダリの話を持ち出されて、複雑な心境を顕にした表情で首を傾げた。
なるほど、そうか。
どうやらニューイは憧れのスパダリポテンシャルを持つ凌馬を、なかなかに気に入っているようだ。
腹黒い一面を知らないニューイから見ると、確かに凌馬はスパダリキャラに見える……と、思う。たぶん。
しかしニコニコ笑顔でナチュラルに釘をさせる強かな毒舌リバーシブルイケメンだと知っている九蔵からすると、首を傾げてしかるべき発言だろう。
知らないニューイは、凌馬はとてもいい男だから仲良くしよう? と言っている。
(…………。そら顔が良くて仕事もできて人にも好かれてニューイが大好きで明るく優しいトップアイドルとか、俺よりはいい男でしょうけどねー)
それに気がついた途端──九蔵の脳内で小さな九蔵たちが、一斉に「ヤーキーモーチー妬ーけーたー」と合唱した。
いや別に? 別にニューイに憧れられたいわけじゃない。嘘だ。可能ならいくらでも憧れられたい。男として負けたくない。
ちなみに移り気は疑っていない。
凌馬の気持ちはわからないが、ニューイが好きなのは九蔵だ。
自分に自信はないけれど、ニューイの執着とも言える一途さは知っている。恋敵だとしてもニューイは凌馬を選ばないはず。
それに、だ。
嫉妬はするものの、九蔵は凌馬のことが嫌いなわけではなかった。
おそらく彼もそうだろう。
シャイな九蔵と猫かぶりの凌馬は、本音を口にしないところだけは似ている。だから本心を相手には言わない。
本当のところはわからないが。
ただ九蔵がヤキモチをニューイに言えない理由を、ニューイよりも、凌馬のほうがわかるかもしれないとは思うのだ。
いやはや、言えぬ。
仮面が分厚い二人の気持ちなど、ド素直なニューイにはわかるまいて。
「おっ」
「ん?」
そうしてカチャカチャと皿を洗いながら話をしていた時。
不意にニューイのらくらくフォンがポコポコっとメッセージを告げた。
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