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断りを入れるニューイ。
特に気にせず返信を待つ九蔵。
しばらくトントンとメッセージのやり取りをしていたニューイは、おもむろに「九蔵」とこちらを伺う。
「リョーマにちょっと話があると言われたのだ。作りすぎたオムライス会はちょうどお開きだろう? 電話をしてくるので、私は先に部屋へ戻るのだよ」
「おうふ」
九蔵は返事の代わりにへちゃむくれた息を吐いた。相手が凌馬で大事な話と言われたのだから無理もない。
なんの話だトップアイドル。
なんの話でも構わないのだが、告白だけはやめろください。
ニューイが一途な自信はあっても、凌馬がニューイに恋愛感情がないという確証はない九蔵である。
内心で凌馬にテレパシーを送る九蔵は、それでも包容力やら余裕という単語を脳内に浮かべ、返事を待つニューイにグッ! と親指を立ててみせた。
「よし! 行ってこい!」
「! う、うむ!」
──いやだってほらッ!
──世のスパダリならきっと笑顔で送り出して後で二人きりの時にうまいことヤキモチをチラつかせる胸キュン溺愛エンドに持っていくのかなってッ!
キランと白い歯を光らせにこやかにサムズアップした九蔵は、心の中で「世のスパダリはスパダリ型AIとか搭載してんのかね」と割と真剣に疑問視した。
カッコつけるって、凄く大変だ。
そう痛感する九蔵である。
おかげで元気なお返事をしたニューイは、百九十センチの成人男性がフリフリと手を振る図を披露し、名残惜しそうにキッチンを出ていく。
そうしてチョロ蔵がうちの彼氏様はかわいいを嗜んでいる隙に、リビングで澄央たちにひと声掛けたあと、バタン、と玄関ドアの閉まる音がした。
……ふむ。見送ってしまった。
「スゥゥ……ハァァァァ……よし、平常心だ……今日から俺は菩薩になった……」
残された九蔵は濡れた手をタオルでもそもそと拭きつつ、湧き上がる好奇心と独占欲をそーっと胸の奥へ押し込む。
いやまぁ、別にいいのだが。
相手がズーズィやドゥレドなどなら問題なく見送るわけで、凌馬だけダメなんて言うのは流石に酷いと思う。自分がされたら割と結構かなり凹む。
それに九蔵が愛するニューイにとって、凌馬は友人なのだ。
しかもリスペクトし合っているような仕事仲間でもある。
仮に、仮にだ。
仮に凌馬がニューイを恋愛的に好きで九蔵に線引きするよう釘を刺したのだとしても、九分九厘、凌馬は自分を棚に上げてそれを仕事に持ち込まないし、恋人から奪うこともしないだろう。
自分にも人にも厳しいやり手だ。
凌馬は爽やかイケメンと腹黒イケメンの二面性はあるものの、普段の九蔵なら、性格的にもむしろ大好きな部類の人間だった。
──ではなぜニューイと仲良くしている姿を見ると、つい嫉妬してしまうのやら。
(それは凌馬がスパダリポテンシャル持ちで、俺にそれがなくて、ニューイがそれを好きで……でも俺が一番気に食わないのはそこじゃねぇんだよな〜……)
「うぇ〜い……」
口元をへの字に曲げてムッスと不貞腐れてしまう理由を自覚している器用な九蔵は、やっぱり口元をへの字に曲げた。
せっかくの休みだ。
とりあえず忘れよう。
九蔵は思考を一旦別のところへ置くことにし、気持ち大股でリビングへ戻る──と。
「リョーマって誰スか?」
「リョーマ黒ウサギ友達?」
「…………」
そこにいたのは、ワクワクと説明待ち顔でローテーブルを囲むマイペースコンビ。
──壁に耳ありトカゲにナスビ。
残念ながらこのアパートの壁の厚みは、キッチンの会話がつつ抜ける程度しかないのである。
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