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「しかし九蔵と出会ってもう一年半以上経っているぞ。私が九蔵に似てくることはおかしくないのだよ」 「う。……ですね」  九蔵が赤い顔を擦ってベッドにゴロンと寝転がると、ニマ〜と笑いながらニューイもゴロンと隣に寝転がった。  言われてみれば、まぁそうだ。  自分にも多少自覚がある。  例えば今日。  もしニューイと出会っていなくても、うまい屋のメンツと触れ合って尊重されて傷を癒した九蔵は、ちゃんと生きたと思う。  ただし九蔵は、今日、いつも通り下手くそな笑顔で玉岸の言葉をスルーするのだ。  そして仕事が終わって薄暗い一人の部屋に帰ってから、喉に小骨が刺さった気分で思い出したくもない記憶が頭から離れるまで、ゲームの世界に逃げただろう。  玉岸の気持ちを考えることなく。  自分の気持ちを伝えることなく。  納得できそうな〝自分も悪かった〟を集めて平気なフリで生きていた。  けれど、ニューイと出会ったから。  九蔵は過去が再来したところで思ったほど揺れることなく、なんならご機嫌な気分で開き直ってさらけ出したわけだ。  あの不思議な気分は、ニューイがそいやと九蔵に持たせたものだった。  ニューイと出会って、九蔵の中にニューイがちらほら混ざってしまった。  不器用だが素直なニューイ。  器用だが強がりな九蔵。  恥ずかしながら、九蔵は自分ひとりじゃ物を言えない臆病者だ。  玄関を破壊して前世の恋人だか魂だかなんだかを理由に押しかけたニューイを絆されて招いてしまったし、それで価値観の違いに耐えられず逆ギレした挙句言い逃げもした。  ごめんを面と向かって言えない。  貢ぎ物で誤魔化そうとするヘタレ。  報連相をしないで一人で考え結論を出し、言葉をケチるバカヤロウだ。  女の子うんぬんも結婚うんぬんもなんやかんや、九蔵ひとりじゃ思い込んでアホな暴走をして回りくどかった。  しかしニューイは九蔵がいい子ぶりっ子をしている時ほど感情的で、九蔵が怒ったり泣いたりした時ほど理性的である。  そりゃあ人のゲームを破壊して言わないようなマヌケで九蔵はいつもやいやいと苦労するが、九蔵が本当に困った時は、ニューイが必ず受け止めてくれる。  ニューイに自分の想いを伝えるようにしてから、九蔵の口は少し素直になった。  何度も何度も意見を求められ、考えを尋ねられ、九蔵はじっくり自分の意見を言うことに慣れさせられた。  ニューイは否定しないから。  喧嘩をしても離れていかないから。  そうやって自分を否定されたことを、意見を言えずに終わったことをスリスリと薄められたから、今日の九蔵はドンと構えて玉岸とスッキリ言い合えたのだ。  まぁ、ニューイのワガママが移った。  直球勝負。ぶつかって分かり合う。お互いが本音で話さねば無意味だった。  そういう気持ちとエピソードを、照れくさいところは割愛してニューイに伝える。  するとニューイは九蔵の肩にトンと自分のそれを当て、隣合う手をキュッと握って唇を尖らせた。ん? どうした?

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