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「実のところ、何度か出ていこうと思ったのだよ。頑張って我慢したぞ!」
「は? なんで、ってかそもそもお前さんいつから見てたんだ?」
「ええと、九蔵が破壊ゲームのチョイスに激怒したくらいからだね。迎えに来たのはいいものの、早く着きすぎて従業員入口ドアにへばり付いていたのさ。すると彼が現れてあの話が始まったのである」
「話のオープンラストじゃないですか」
聞いてないのセカンドステージ。
全然いいわけありゃしない。
というか、最初から聞いていたならニューイに伝える気のなかったあれそれすらダダ漏れだったことになる。オーマイガ!
九蔵がまたムシになりかけると、肩にトンをしているニューイがスリスリもしてきた。やめんかひよこ頭さん。
ムシになれなかった九蔵は、チラとニューイを伺う。
冬眠の気配を察知してスリスリで阻止する手馴れた悪魔様は、恋人の文句を聞いても特に不満がなさそうだ。
ニューイがニューイでよかった。
本当はそんなこと思ってたのか! と殴りかかられずに済む。
ただまぁ、唇は尖っているのだが。
「当然である! あの人間は私の九蔵をずいぶん悪く言ったのだよ……!? 私には難しいがなにやら含みのある言い方で九蔵を困らせ盟友を怒らせただけでも飛び込もうかと思ったが、昔の九蔵を傷つけた人間だとわかってからはそれはもう頭がカラコロしたものさっ。九蔵に嫌われたいだなんて正気じゃない! 九蔵が言い返さなければうまい屋の出入口は粉砕されていたのだよ!」
「あぁうん、はい。そうですか。言い返せてよかったです。はい」
ムスムスとくだを巻くニューイさん。
勢い余ると破壊するニューイさん。
ニューイは真剣に怒るが、むしろテンションが上がった九蔵はもにょーんと口元をもごつかせてなんでもないフリをした。
(……自分のために怒る恋人とは、かくもよきものなりにけり……)
「最後には丸く治まったので不問にするが、人間に事情があったとしても私は全力で九蔵を贔屓するぞ! 世界が満場一致で九蔵を悪にしたって私だけは悪い九蔵の味方である……! ふんっ、ふんっ」
「……ゔ〜い……」
戦う九蔵の邪魔をしないよう我慢したのだと訴えるニューイの隣で、プシュゥと湯気の上がる顔を俯かせる九蔵。
いかん。顔に出る。
アイデンティティの崩壊だ。
「まったく九蔵の仕事がなんだろうがステータスがなんだろうが愛しさ全振りで私特化プロフェッショナルなのだからなんの問題も」
「ストップ」
「もがっ」
ちょっと勘弁してくれといいぞもっとやれの狭間で幸福な死を迎えそうな九蔵は、俯いたままニューイの口元を押さえた。
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