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ぷに、とうるおいリップにお触りされたニューイがキョトンとこちらを見る。かわゲフンゲフン。そうじゃなくて。
九蔵は俯けた顔を、少しだけ上げた。
赤らんだ頬とへの字口。
ん、と片眉を上げて上目遣い、なにも言わずに〝これ以上はおやめなさいな〟と視線で語りかける。
それだけだが、恋人は「ゔっ……!」と呻いてめしょりとへちゃむくれた。
なんで効果抜群なのやらだ。鏡を見ればよっぽどいい男が見られるというのに、ニューイは九蔵の挙動ですぐに死ぬ。
で、まぁそこ、全然好きです。
ので、ちとそれらしく推して参る。
「あー……ニューイさんや。瀕死メンタルに推し活終わって栄養チャージしたし、ゆっくりお湯に浸かってリフレッシュしたいものですな」
「んおっ。夜勤明けのバスタイムだね? 九蔵は放っておくとシャワーで済ませるから前もってお湯を溜めておいたのだよ。もちろん浴槽は綺麗にしてから溜めたぞ!」
「いや、はい。それはありがとうなんだけど、今日の俺さんのメンタル満足度を考慮してアンサーを再考してもらいたいというかなんというか」
「うん? 九蔵の満足度かい?」
ふんふんとドヤっていたニューイが、不思議そうに首を傾げる。
相変わらず鈍ちんだ。
ロマンス系なくせに変なところで天然な悪魔様である。
普段シャワーで済ませがちな九蔵がわざわざ湯船に浸かりたいと口に出した意味を理解しないニューイに、九蔵は「だからその、ね」ともにょもにょ唇をもごつかせた。
「なんだ、ほれ……こちら本日、過去のトラウマとやらを払拭しまして……」
「? うむ」
「それが周りの人、引いてはニューイさんと出会ったおかげだとお気づきあそばれまして……」
「う? む」
「帰宅後、このようになんでもない日常を平和に過ごす幸福を噛み締めたりなんかしちゃったりしておりますでしょう?」
「うむ」
「で、俺さんとニューイさんがお互いに似てきたなぁと。かつ、ニューイさんはあの修羅場を見守ってくれていたのかぁと」
「うむうむ」
「なお当方夜勤明け。脳死中」
「うむうむうむ」
「…………入浴剤は、白いヤツな」
「うむ!」
途中から理解してキラッキラのニッコニコスマイルで頷くニューイから「んぼへッ」と全力で視線を逸らす九蔵。
確かに自分はどうあがいても直球では言えないシャイを拗らせた人間で、彼氏はどうあがいても直球しか受け止めないド天然を拗らせた悪魔である。
しかし全てを夜勤明け のせいにすれば、ラブラブバスタイムとやらにだってお誘いできるのだ。
交際一年半。
やればできるぞ、個々残 九蔵。
内心ガッツポーズをするものの、今日のパンツの柄は思い出せない九蔵であった。
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