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第5話 ∥

確かあの時は妹と買い物に出掛けた帰りだったと思う。 その時、トラックに轢かれそうな猫を見つけた。 考えるより先に体が動いてた。 俺は猫を助けるためにトラックの前に飛び出した。 その後の事はあまり覚えてないけど、多分あの時俺はトラックに跳ねられて死んだんだろう。 そんな俺が、なぜこんな事になってるのかは分からない。 それにここは本当にゲームの世界なんだろうか。 乙女ゲーム『INNOCENT LOVERS』 通称『イノラバ』 妹がハマってたゲームだ。 俺はやったことがないけど、事あるたびに話してきた妹のせいで俺もイノラバの情報通になっていた。 舞台はエクレール王国、エクレール学院高等部。 そこにこの少女、シャロウネ・グロウを初めとする攻略対象の4人が入学する。 その一年後、シャロウネたちが2年に上がるときに魔力の強さを見込まれたヒロインがエクレール学院に編入してくる。 エクレール学院ではイベントとして色々な事件が起きる。 それを攻略対象と共に解決、回避することで絆を結んでいくというストーリーだ。 ちなみにシャロウネ・グロウはヒロインのライバルキャラだ。 でももしここがゲームの世界だとして、俺はディラントなんて名前のキャラは知らない。 ゲームには出てこないキャラだ。 「………の…」 俺がディラントに乗り移ったのか、それともこれが俗に言う転生なのか…… 「…あの……」 なんにしても分からない事だらけだ。 唯一分かってるのは、俺はもう元の世界には帰れない。 「あの!」 シャロウネの声に体が揺れる。 声のした方を見ると目の前にシャロウネの顔があって、俺は思わず体を引いてしまった。 「…お辛そうですが、大丈夫ですか?」 そう言ってシャロウネは心配そうにする。 「…ぁ……すいません、少し考え事をしていたので……」 「……そうですか。あ、お名前…お名前お伺いしてもよろしいでしょうか?」 ……あ、そういえば名乗ってなかったな。 俺にはあまり馴染みのない名前なんだけど…… 「ディラント、と呼ばれてました」 「……ディラント」 ディラントの名前を復唱したシャロウネがニコッと笑う。 「ではディラント、まずは身なりを整えましょう。その後は私と一緒にディナーにしましょう」 シャロウネがパンと手を叩いてそう言う。 ………身なり… そこで俺はハッとした。 そういえば俺、かなり汚れてる。 そう思って俺は寝ていたベッドを確認した。 多少は綺麗にしてくれたみたいだけど完全じゃなかったみたいで、ベッドに敷かれていた真っ白なシーツは所々汚れていた。 「すいません、ベッドを汚してしまって」 そう言うとシャロウネはもちろん、一緒にいたメイド服の女の人もクスクスと笑った。 「大丈夫ですよ、これくらいは洗えば落ちますから。あ、私はシャロウネお嬢様の侍女のリーナと申します」 そう言ってリーナさんは頭を下げた。 「早速ではありますが、ディラント様にはお風呂に入って頂きます」 リーナさんがそう言って手に持っていたベルを鳴らすと、また数人のメイドたちが部屋に入ってきた。 「シャロウネお嬢様は自室でご準備を」 リーナさんはテキパキと指示を出す。 他のメイドたちも自分の仕事が分かっているのか、テキパキと動いている。 その動きに感心していると、リーナさんにヒョイっと抱き上げられた。 ………へ? 「さぁ、ディラント様はこちらへ」 俺はリーナさんに抱えられたまま浴室に運ばれる。 「だ、大丈夫です!自分で歩けますから!」 そう言ってもリーナさんは下ろしてくれる様子は無く、浴室に着くと既に待機していた他のメイドたちに服を脱がされた。 抵抗虚しく、俺はメイドたちの手に寄って体の隅々まで洗われた。

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