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第9話 ∥

(シリウスside) 3日前、シャーネがスラム街の手前で倒れている少年を拾ったとリーナから報告を受けた。 身なりからしてスラムで育った子供なのは間違いないと言う。 スラムの住人は教養が無く、生きていく為には手段を選ばない。そこで生まれた子もまた然りだ。 スラムで育った子供はまともな教育を受けられず、親に習って気性が荒く好戦的に育ってしまう。 そんな子供をシャーネに近付ける訳にはいかない。 すぐにでも孤児として協会に預けようと考えていた。 しかしシャーネはその少年を気に入ったのか、シャーネ自らその少年を看病し始めた。 そんな状況ではシャーネからその少年を引き離す事も出来ず、しばらく様子を見ることにした。 少年を保護してから3日、少年の目が覚めたと報告を受けた。 その少年がどんな少年なの分からない。 メイドたちにも警戒するよう注意をした。 しかしいつまでたっても、その少年が問題を起こしたという報告は受けなかった。 私はどうもその少年が掴めず、食事を共にしようとそうメイドに指示を出した。 食事の時間、シャーネが手を引いて連れてきたのはスラムで育ったとは思えないほど洗礼された、艶やかな黒髪と珍しいアイスグリーンの瞳を持つ美しい少年だった。 その少年は私が挨拶をすると、少年もしっかりと『ディラント』と自分の名を告げた。 見たことはないが、とても綺麗な礼をして。 スラムで育ったディラントがこれほどしっかりとした挨拶をするとは思わなかった。 言葉もしっかりしていて、拙くはあるが敬語も使えているし、子供とは思えないほど落ち着いてもいた。 これ以上食事を遅らせるわけにもいかなく、取り敢えず私は皆で食事をすることにした。 準備が整いシャーネも食事を取り始める。 ふとディラントが食事に手をつけていないことに気付いた。 ディラントにどうしたのかと聞いてみると、食事のマナーを知らないと返ってきた。 スラムでは当然マナーを教える者など居ない。 教える者が居なければ知らないのも無理はない。 そう思って、私はディラントに好きに食べなさいと言った。 私はスラムで育ったディラントは綺麗に食べることは出来ないだろうと思っていた。 下手するとナイフやフォークも使えないんじゃないかとさえ思っていた。 でもディラントは完璧とまではいかなくても、きちんとナイフもフォークも使えていた。 ディラントに美味しいかと聞くと控えめな笑顔で『美味しいです』と返ってきた。 こういう所は子供らしいと思った。 ディラントが眠ってしまったことで食事会はお開きになって、皆それぞれ部屋に戻っていった。 私も執務室に戻ってきていた。 「彼の事、アランはどう思う?」 私は執事長のアランにディラントの感想を聞いてみる。 「立ち振舞い、会話、どれを取ってもスラム出身とは思えなかったですね」 「アランもそう思うか」 「はい。……何かの目的で誰かに教育されたのでしょか」 「スラムでか?」 「それもそうですね」 そう言ってアランはクスッと笑う。 「で、アランの方はどうだった?」 私はシャーネがディラントを拾ったときにアランにディラントの調査を頼んでいた。 アランもスラム街出身である。 5年前、私がアランをこの家に連れてきた。 当時のアランは同年代の少年たちのリーダー的存在だった。 アランはその人脈を使っての情報収集を得意としている。 今はこの家で執事長と諜報活動を兼任してもらっていた。 「はい、確かにスラム街にディラントという少年は居ました。父親と暮らしていたようです」 「その父親は今は?」 「ディラントの事は探そうとはしていないようです」 「……父親の元に帰した方がいいだろうか」 そう言うと、アランが複雑そうな表情を見せた。 「正直に申しまして、あまりおすすめしません」 「どうしてだい?」 「ディラントはこの父親に日常的に暴力を受けていたようです。ディラントの体にも無数の傷や痣を確認しております」 「……もしかして、ディラントは父親から逃げてきたのか」 「そうかもしれませんね。で、旦那様はディラントの事をどうするおつもりですか?」 そう聞かれて、私はどうしたものかと考える。 「これはディラント次第ではあるが、私がディラントを引き取ろうと思う」 「良いのではないでしょうか。シャロウネお嬢様も彼の事は気に入っているみたいですし」 「そうだな、ディラントには明日話してみよう。アランも手続きに必要な書類を準備していてくれ」 「畏まりました」 そう言ってアランは胸に手を当てて頭を下げた。

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