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第12話 ∥

朝食を食べ終えて、俺とシャロウネは伯爵様に言われた通り伯爵様の書斎に出向いた。 共に着いてきたリーナさんが書斎の扉をノックすると、中から執事服を着た人が出てきた。 ……あれ?あの人どこかで…… 「どうぞ」 その人はそう言って扉を開けると、中に入るよう手で示した。 中に入ると、奥の机に伯爵様が座っていて書類にサインをしていた。 「あぁ来たね。もう少しで終わるからそこで座って待っててくれるかい」 伯爵様はそう言ってまた机に向かった。 ソファに座って待っている間、リーナさんがお茶とお菓子を用意してくれる。 正直、さっき朝食を食べたばかりだからいらないと思ったけど、手をつけないのは申し訳なくて、俺はお茶をチビチビと飲んでいた。 「待たせてしまってすまないね」 しばらくすると仕事が一段落ついたのか、伯爵様がソファに移ってきた。 リーナさんが急かさず伯爵様にお茶を出す。 「早速だかディラント、君はスラム街出身で間違いないね」 そう聞かれて俺は首を傾げた。 「……すいません、スラム街とは?」 「あぁ、すまない。スラム街とは……」 伯爵様がスラム街について説明してくれた。 スラム街とは、いわゆる貧困街のこと。 仕事が無かったりして、その日の食いぶちを辛うじて得ている人たちが集まる場所。 スラム街はほぼ無法地帯で、かなり危険な場所らしい。 俺はそれを聞いて何となく納得して、無意識に微妙に痛む痣を撫でた。 「ディラントは父がスラム街にいたね」 そう聞かれて、俺は最初に殴り掛かってきた人を思い出す。 「………居ましたね」 「父の元に帰りたいと思うかい?」 ………帰りたい…か 「……あまり、思い入れがないので」 伯爵様は俺が邪魔なんだろうな。 伯爵様から見れば俺はシャロウネに近付く悪い虫。 貴族からみたら俺はただの平民。 いやスラム街出身の俺は平民以下の存在。 そんな俺がいつまででもこの屋敷に居るのか我慢ならないんだろう。 「……あの……スラム街に戻れと言われれば俺、いつでもここを出ていきます」 「え!?出ていくのですか!?」 俺の言葉に反応したのはシャロウネだった。 「私嫌です!ここに居てください!」 そう言ってシャロウネは俺にすがってくる。 その目には涙が溜まってきていた。 「シャーネ、落ち着くんだ」 伯爵様はイヤイヤと俺にすがるシャロウネを宥める。 「違うんだよシャーネ、ディラントを追い出したいんじゃないんだよ」 伯爵様のその言葉に、今度は俺が驚いた。 「ディラント、すまない。私の言葉が足りなかったね」 俺は伯爵様が何を言いたいのか分からなくて、少し戸惑う。 「……えと…」 「ディラントが父の元に帰りたいと言うなら私もそれに従う。しかし、そうでないなら、私の子供として一緒に暮らさないかと言おうとしたんだよ」 ………伯爵様の子供としてって… 「……あの、それはどういう……?」 俺が戸惑っていると、伯爵様がニコッと笑う。 「ディラントが良ければだが、私は養子として君を迎え入れようと思っている。どうだろうか、私の…私たちの家族として一緒に暮らさないかい?」 ……俺が、伯爵様たちの家族に? 俺を受け入れるってこと? 「返事は直ぐにじゃなくて構わない。ゆっくり考えてほしい」

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