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第14話 ∥
「……そうか、皆を見て覚えたか…」
そう言って伯爵様は考え出す。
やっぱり不自然すぎだよな。
誰かに教わったって言った方が良かったか?
でも誰に教わったか聞かれると困る。
「やはり、私の養子になってくれないか?」
考え込んでた伯爵様がバッと顔を上げると、そう言った。
「…え?」
「ディラントはスラム街には戻るつもりはないのだろう?」
「…戻るつもりはないですけど……」
「なら!」
嬉々として言う伯爵様に、俺は唇をキュっと噛んだ。
「……一つ、お伺いしても良いですか?」
「なんだい?」
「なぜ伯爵様は俺を養子にしようと思ったんですか?俺はスラム出身だし、まともに会ったのは昨日なのに……」
伯爵様がいい人だとしても、会って間もない、素性の知れない子供をすぐに養子しようとするだろうか。
もしかしたら、何か裏があるんじゃないかと思ってしまう。
………本当は疑うなんてしたくない、でも伯爵様の申し入れはあまりにも俺に都合が良すぎる。
「不安になるのは分かる。私はね、ディラントのその聡明さが気に入ったんだよ」
「……聡明?俺が?」
「先の話を聞いて確信した。それにシャーネも君に懐いているようだしね」
「………それだけですか?」
「それだけとは?」
「…ぁ…いえ…」
本当にそれだけなんだろうか。
伯爵様が何を考えているのか分からない。
分からないけと……
「………分かりました。俺は伯爵様の養子になります」
「本当かい!?」
そう言う伯爵様に俺は頷いた。
ディラントには、まだ大人の力が必要だ。
ここで放り出されても生きてはいけない。
なら、ここは伯爵様を利用するしかない。
降って湧いたチャンスを逃すわけにはいかない。
"俺"が生きていくために……
伯爵様がアランに指示を出して書類を俺の目の前に出した。
俺が伯爵様の養子になる為の申請書だ。
ここに伯爵様と俺の名前を書いて受理されれば、俺は伯爵様の息子になる。
どうやら伯爵様の中では俺が養子になることは決定事項だったらしい。
じゃなきゃ、返事してすぐに申請書が出てくるわけがない。
「ここに名前を書いてくれるかい」
伯爵様にそう言われたけど、俺は動くことが出来なかった。
「……すいません。俺は文字が書けません」
この世界の文字は日本語とは違う。
よく分からない記号みたいな文字。
俺は読むことも、書くことも出来なかった。
「私が書いても良いかい?」
伯爵様がそう言う。
俺はそう言う伯爵様に頷いた。
伯爵様が申請書にディラントの名前を書く。
「これを出しておいてくれるかい」
書類を書き終えると、伯爵様はアランに書類を手渡した。
「これで君は『ディラント・グロウ』だ」
抗っても仕方ないのなら、この現状を受け入れるしかない。
ディラントが生きていける環境は"俺"が作る。
ディラントが生きていれば、"俺"も生きていられる。
伯爵様が"俺"の言動が気に入ったって言うなら、"俺"はその期待に応える。
伯爵様に嫌われないように。
ディラントが一人でも生きていけるようになる時まで……
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