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第28話 ∥
午後になると、部屋に医者が来た。
「ご気分はいかがですか?」
「…… 大分、良くはなってます」
「そうですか。それは良かったです」
そう言って先生は笑う。
茶色の髪に茶色の瞳。
眼鏡をかけてて、ちょっとキツそうなイメージ。
男の人だけど、格好いいっていうよりは美人って言った方が合ってる。
…………っていうか、さすが乙女ゲームの世界。出会う人が皆美形ばかりだ。
「どうかされましたか?」
そんな事を考えていると、先生がそう言って覗き込んでくる。
「あ、いえ……何でもないです」
俺はそう言って首を振った。
「そうですか。……では診察を始めさせて頂いてもよろしいですか?」
そう言われて、俺は頷いた。
この世界での診察は主に触診。
でも魔法を使って精密検査的なことが出来るらしい。
「……回復はされていますね」
先生が俺の首筋に触れてしばらく、そう言って手を離す。
「回復はされてますが、ディラント様の場合過度な過労とストレスなので、しばらくは安静になさってください」
「………しばらくって、どれくらいですか?」
「最低でも7日間は安静にしていてください」
「え、7日間も!?」
「はい、この間は激しい運動や過度な勉強などは控えてください」
……7日間も動かなかったら確実に鈍ってしまう。
ようやくディラントの体に慣れてきたのに……
「……あの、どれくらいなら体を動かしても?」
「出来れば動かないでいて欲しいのですが……
散歩程度なら許可しましょう。ですが必ず誰かと共にしてください。それと3日間程は絶対安静です。今無理をすれば、また体調が悪化してしまいますから」
体調を悪化させるのはまた伯爵様たちに迷惑を掛けてしまうと思って、俺はそれに素直に頷いた。
「それと、ディラント様はかなり食が細いとお伺いしました」
「………ここに来るまでは、まともに食事をした記憶がないので……」
ディラントの記憶の中にはまともな食事をしてる記憶なんてない。
そう言うと、先生が少し悲しそうな表情をする。
「食べられないというのも、今回の体調不良の原因の一つです。無理は禁物ですが、今後少しずつ食べる量を増やしていきましょう」
俺はこれも頷いた。
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