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第29話 ∥
先生が帰った後、俺はまた眠ってしまった。
先生と話して疲れたのか、友華の夢は見なかった。
ただ、それが逆に申し訳なかった。
夢を見ない事は悪いことじゃない。
それは分かってる。
分かってるけど、この一瞬でも友華の事を思って無かったんじゃないか。
友華の事を忘れてたんじゃないかと思ってしまう。
そんな事を考えていると、突然吐き気がして洗面所に駆け込んだ。
流しに胃の中のものを吐き出すと、俺はその場に座り込んだ。
吐いたことで体力が奪われたのか、そこから動けなかった。
そのままどれくらい経ったのか、部屋に人の気配がした。
「……ディラント様?」
……リーナさんの声。
「ディラント様?どちらにおいでですか?」
リーナさんが俺を探して部屋の中を移動している。
早く戻らなきゃ……これ以上迷惑掛けられない。
そう思うのに、体が動かない。
何とか洗面台に手を掛けて立ち上がろうとすると、手に力が入らなくて倒れてしまった。
地味に痛くて踞っていると、俺が倒れた音が聞こえたのかリーナさんが洗面所まで来た。
「ディラント様!?」
踞っている俺に、リーナさんが駆け寄ってくる。
「ディラント様、大丈夫ですか!?」
そう言うリーナさんに『大丈夫』と返したいのに声が出ない。
「……すいません」
そう言ってリーナさんが俺の額に触れた。
その瞬間、リーナさんが顔をしかめる。
「失礼いたします」
リーナさんがそう言うと、突然俺を抱えた。
リーナさんに抱えられた俺は、動く気力が無くてされるがままだった。
リーナさんに抱えられてベッドに寝かせられる。
「すぐにお医者様を呼んで参ります」
そう言ってリーナさんは部屋を出ていった。
………結局、リーナさんに迷惑を掛けてしまった。
本当、何してるんだろう……
そう思って、俺は大きくため息をついた。
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