32 / 230

第31話 ∥

夢を見た。 それは懐かしくて、優しい夢。 両親が居て、友華が居て、皆笑っているすごく幸せな夢。 俺は客観的に3人を見ていた。 3人が笑い合う中に俺は居ない。 それでも良かった。 3人を眺めていると、ふと父さんと目が合った。 夢なのだから目が合ったからといって、リアクションを返してくれるとは思ってなかった。 でも夢の中の父さんはフッと微笑むと俺の方に近付いてきた。 父さんは俺の目の前に立つと、そっと頬に触れた。 その手はとても温かくて、涙が出た。 『……父さん』 父さんは呼んでも答えてはくれない。 ただ優しく微笑むだけ。 でもそれでも良かった。 『会いたかった』 俺は頬に添えられてる父さんの手にすり寄った。 ・・・・・・・・・・ ふと目を開けると、とても温かい気持ちになった。 それは皆の夢を見たから。 皆笑ってた。 父さんも母さんも、友華も…… 皆の笑顔がまた見られて、俺は嬉しかった。 そんな事を考えながらふと横を見ると、椅子に座って眠っている伯爵様に気付いた。 「………伯爵様?」 無意識に呟くと、伯爵様の目がふと開いて思わず体が揺れた。 伯爵様のラベンダー色の瞳が俺を捉えた。 椅子から立ち上がった伯爵様が無言で近付いてきた。 俺の前に立った伯爵様が、俺に向けて手を伸ばす。 俺は思わず目を瞑って体を強張らせる。 その手に身構えていると頭にポンと置かれて、俺は驚いて伯爵様を見上げた。 伯爵様と目が合うと、伯爵様はにっこりと微笑んだ。 「気分はどうだい?」 そう聞かれて、一緒何の事か分からなくなる。 ………そういえば俺、また倒れて 「……あ、大丈夫…です」 「……そうか」 そう言うと、伯爵様は少し寂しそうに笑った。 ……なんでそんな顔をするんだろう。 俺が何か、気にさわるような事をしてしまったんだろうか。 「……ディラント、少し私と話をしようか」 そう言って、伯爵様は真剣な表情で俺を見た。

ともだちにシェアしよう!