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第32話 ∥

『少し私と話をしようか』 伯爵様はそう言って俺を見る。 ………やっぱり俺は、伯爵様の意には添えなかったんだろうか。 「……分かりました」 そう言って俺は、ベッドに座り直した。 早かったな……俺なりに頑張ったつもりだったんだけどな。 「私はディラントが頑張っていることは知っている」 そう伯爵様が話始める。 ………ここを出たら、どうしようかな。 「ディラントが私たちを家族と思えないのも分かっている」 「……え?」 思いがけない言葉に、俺は一瞬戸惑った。 「出会って間もない私たちを信用してほしいと言っても無理な話だろう」 ………一体伯爵様はなんの話をしているんだ? 伯爵様の話の内容が解らなくて、俺は更に戸惑った。 「……えと、伯爵様は俺が要らなくなったんですよね?」 『信用してほしい』なんて…… それじゃまるで、伯爵様が俺の事を…… 「伯爵様は俺が聡明だから養子になってほしいって言いました。俺はその期待に添えなかったんですよね?」 そう言って伯爵様を見ると、伯爵様は悲しそうに笑っていた。 ………何でそんな顔をするんだろう。 「ディラントにはそう思われても仕方ないね。確かに、最初に気に入ったのは君の聡明さだった。でも今は違う」 そう言って、伯爵様は俺の頬に触れてきた。 「ちゃんと話をするべきだったんだ。私はディラントが誤解していると分かっていて放置してしまった」 「……誤解?」 「私はね、確かにディラントの聡明さを気に入った。でもディラントを見た瞬間、放っておけないとも思ったんだよ」 戸惑って伯爵様を見ると、伯爵様は俺の頬に触れたまま優しく微笑む。 「初めて会ったときにディラントの瞳を見て、一人にしては駄目だと思った。これは私の自己満足ではあるが、私がこの子を守ってあげなければと思った」 突拍子もない言葉に戸惑いはある。 でも伯爵様を見ていると、嘘を言ってるようには見えなかった。 「今は信じられないかもしれないが、私はディラントと家族になりたいと思っているんだよ」 優しい声に優しい笑顔。 それはシャロウネに向けられるものと同じだった。 『家族になりたい』 すごく嬉しい言葉だった。 でも、俺はその言葉を素直に受け入れられなかった。

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