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第33話 ∥

伯爵様の言葉に、俺は首を振った。 「……駄目です」 伯爵様の言葉は素直に嬉しい。 伯爵様はディラントの事を自分の子供として見ていてくれたってことだ。 でも"俺"は違う。 俺は伯爵様を利用することしか考えてなかった。 自分が生きる為に伯爵様を利用していた。 俺が頑張っていたのも自分の為。 伯爵様に認めてもらって、俺が自活出来るまでここに居られるように…… そんな俺が、今更伯爵様と家族になんてなれっこない。 「…………俺は、伯爵様を利用してるんです」 「利用?」 「…俺は、自分が生きる為に伯爵様を利用したんです。伯爵様の養子になったのも、俺が生きる為に都合が良くて…………」 「それの何が悪い?」 伯爵様が俺の言葉を遮る。 「え?」 「子供が大人を頼るのは当たり前の事だ。ましてや、ディラントはまだ幼い。そんな子供が自力で生きていくにはこの世の中では難しいだろう。だからこそ、子は大人を頼るのだ。それは幼い子の本能とも言える」 伯爵様は俺の頬を撫でると、優しく微笑んだ。 「親が子に頼られて嬉しくない訳がない。だから、もっと頼りなさい」 そう言う伯爵様は、夢の中の父さんと同じ顔をしていた。 伯爵様の触れた頬から伯爵様の体温が伝わってきて、とても温かい。 自然と涙が頬を伝った。 張り詰めていたものが少し緩んだ気がした。 自分がディラントだという現実が受け入れられなくて、それでも何とかしようとして… もがいてもがいて、それでも何も出来なくてもどかしくて… もうずっとこのままなんじゃないかと思っていた。 流れる涙を手で拭う。 それでも止まらなくてゴシゴシ擦ってると、その手を止められた。 擦るのを止めた事で、止めどなく涙が流れる。 どうしたら止まるのか考えていると、突然温かいものに包まれた。 見ると伯爵様に抱き締められていた。 「まだ私たちを家族として受け入れるのは無理だと思う。私たちの想いを押し付けているのは分かっている。それでも私はディラントと家族になりたいと思う」 伯爵様が少し離れて俺を覗き込む。 「ゆっくりでいい、私にディラントの父だと名乗らせてはくれないか」 真剣な瞳から、伯爵様が本気でディラントを受け入れようとしているのが分かる。 伯爵様にまた抱き締められると温かくて、俺は箍が外れたように泣いてしまった。

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