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第35話 ∥
伯爵様と話しているとリーナさんが部屋に入ってきた。
「旦那様、おはようございます」
そう言ってリーナさんは伯爵様に向けて頭を下げる。
「おはようリーナ、ディラントの支度を頼むよ」
「畏まりました」
部屋を出ていく伯爵様を見送ったリーナさんが俺の下に来る。
「ディラント様、ご気分は如何ですか?」
「もう大丈夫です。………心配お掛けしました」
そう言うと、リーナさんは少し驚いた表情を見せたあと優しく微笑んだ。
本当は『迷惑』と言おうとした。
でも何かそれは違う気がした。
支度を終えて、リーナさんと一緒に食堂に向かった。
中に入るとシャロウネも居て、俺に気付くと駆け寄ってきた。
「ディー、もう大丈夫なのですか!?」
「はい、もう大丈夫です」
そう言うと、シャロウネはふわっと笑った。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
(シャロウネside)
朝、食堂に居るとリーナと一緒にディーが来た。
私はディーに駆け寄って『大丈夫?』と聞くと、ディーからは『大丈夫』返ってきた。
今までの経験上、ディーの『大丈夫』は信用出来ないということが分かった。
私はディーの顔をまじまじと見る。
………見た感じ顔色も良さそう。
ディーの言うとおり、本当に大丈夫みたいですね。
そう思って、私はホッと息を吐いた。
「……あの…心配、掛けてしまってすいません」
ディーが少し遠慮がちにそう言う。
私はそう言うディーに少し驚いた。
今までのディーは『心配』という言葉をあまり使わなかった。
今までは『迷惑』と言うことが多かった。
「本当です。すごく心配したのですよ」
少し意地悪っぽく言うと、ディーは申し訳なさそうに笑った。
「すいません、以後気を付けます」
そう言って笑うディーに、私はまた驚いた。
悲しみの色が消えた訳ではない。
それでも以前より……いえ、昨日より薄くなっている。
「二人ともおはよう」
そんな事を考えていると、お父様が食堂にやって来た。
「おはようございます、お父様」
そう言って礼を取る。
チラッとディーを見ると、ディーは軽く頭を下げるだけだった。
ただディーの顔が少し赤くて、どこか照れているようだった。
その後、3人で朝食を食べる。
お父様はディーは話しかけ、ディーもそれに答える。
二人の態度はいつもと変わらない。
でもやっぱりどこか違った。
「お二人共、きちんと話は出来たのですか?」
昨日、お父様がディーと話をすると言っていた。
二人の雰囲気が少し違って見えて、私は二人にそう聞いてみる。
そう聞いた途端、ディーの顔が赤くなかった。
「………お願いです、しばらくその事には触れないでください」
そう言ってディーはテーブルにうつ伏してしまった。
お父様はディーの反応を見てクスクスと笑っている。
結局、何があったのかは教えて貰えなくて、私は首を傾げた。
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