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第37話 デビュタント

「ディー」 書庫室から部屋に向かう途中、シャロウネに呼び止められた。 「シャーネ、どうしたんですか?」 「お茶でもどうかと思いまして」 「良いですね。準備したらティールームに行きます」 そう言うと、シャロウネはニッコリ笑う。 「待ってますね」 そう言ってシャロウネはティールームに走っていった。 俺がグロウ家の養子になって二年が経った。 俺は9歳になって、シャロウネも10歳になっていた。 「ディー、早く座ってください」 ティールームに入った瞬間、シャロウネがそう言って俺の手をぐいぐい引っ張る。 「こらシャーネ、あまり引っ張るとディーが転んでしまうよ」 伯爵様が俺たちを見て、クスクス笑いながらそう言う。 「父様もいらしたんですね」 「仕事が一段落してね」 「そうでしたか。お疲れ様です」 俺がそう言うと、伯爵様はニコッと笑った。 二年経って俺は、シャロウネを『シャーネ』、伯爵様を『父様』と呼ぶようになっていた。 この世界での俺の家族。 メイドや従者の人たちもすごく良くしてくれて、今の俺の大切な人たちだ。 当然、友華の事は忘れてないし、ディラントの事も受け入れた訳じゃない。 でも前ほど今の生活が嫌じゃないし、楽しいと思う。 「ディラント様、どうぞ」 俺が席につくと、リーナさんがお茶を出してくれた。 「ありがとうございます」 そう言うと、リーナさんはニコッと笑った。 「そうだ、シャーネこれを」 伯爵様がシャロウネに封筒を差し出した。 「これは?」 シャロウネが封筒をまじまじと見ながら伯爵様に聞く。 「王宮主催のパーティーの招待状だよ」 「……パーティーの招待状」 「シャーネも10歳になったからね。半年後に開かれるパーティーに出席することになる」 この世界では10歳になるとデビュタント、つまり社交界デビューをする。 王宮主催で10歳になる貴族令嬢、令息が一同に集められる。 王宮主催だから何かない限りは強制参加だ。 ……パーティーか。 来年には俺も出なきゃいけないのかな。 「そのパーティーには、ディーも出てもらうよ」 そんな事を考えていたら、伯爵様がとんでもない事を言う。 俺は思わず飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。 「え!?」 「本来は来年なんだが、ディーにも招待状が来てるんだよ」 そう言って伯爵様が封筒を手渡してくる。 その封筒を見ると、封蝋にはしっかりと双頭の鷲が刻印されている。 双頭の鷲は王家の紋章だ。 つまり、これは紛れもない王家からの招待状。 「……あの、これ何かの手違いでは?」 「私もそう思って確認してみたんだが、どうやら私が養子を取ったことが貴族内で話題になってるらしく、それが国王陛下の耳にも入ってどんな子か見てみたいとのことだ」 本当はもっと前に登城する予定が、俺が不安定だったこともあって延びていたらしい。 二年経ってようやく俺が落ち着いた為、このタイミングで呼ばれたそうだ。 「ではディーのエスコートで行けるのですね」 そう言ってシャロウネが嬉しそうに笑う。 「私も保護者として参加する」 伯爵様がそう言う。 これ、俺に拒否権ないじゃないか!?

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