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第44話 リオネス・ディーク=エクレール
騒がしい場所に意識が持っていかれる。
聞こえてくる声から、一人が騒いでるみたいだ。
「……きっとリオネス殿下ですわ」
令嬢の一人がそう呟く。
「リオネス殿下?」
「ええ、殿下はいつもあぁして騒ぎを起こすのです」
令嬢は周りには聞こえないように、俺にだけ聞こえるように小声で言う。
リオネス・ディーク=エクレール
この国の皇太子で、イノラバの攻略対象の一人。
王子様ってこともあり、攻略対象の中でも一番人気のあるキャラだ。
確かシャロウネの婚約者になる予定の筈だ。
リオネスも10歳になるからこのパーティーに出てるのか。
出来れば関わりたくないな。
そう思って、俺はリオネスには近付かないようにしようと思った。
そう思った矢先、聞き流せない言葉が聞こえてきた。
俺は我慢出来ず、リオネスの元に向かった。
リオネスは同い年くらいの子供を数人引き連れて、一人の大人に暴言を浴びせている。
いくら子供でも相手は皇子、止める者などいない。
相手の人も顔面蒼白で狼狽えている。
俺はリオネスとその人の間に入ると、リオネスを突き飛ばした。
その衝撃でリオネスが尻餅をつく。
その瞬間、ホール中が騒然となった。
リオネスも何が起きたのか分からないような顔で呆然としている。
「…な、何をするんだ!」
リオネスがハッとしたように俺を見ると、そう叫ぶ。
「僕が誰か分かっているのか!?」
「……知っていますよ。リオネス・ディーク=エクレール皇子」
そう言うと、周りがざわめく。
「お前、不敬罪で処刑にするぞ!」
「どうぞご勝手に。俺はどうなっても構いませんが、この方は解放してあげてください」
「この僕に命令するな!」
「……命令ではありません、お願いです」
「なんで僕がお前のお願いを聞かなきゃならない」
……くそガキ。
「この方があなたに何かしたと?」
「そいつは僕にわざとぶつかってきたんだ!」
そう言うリオネスに、俺は確認の為に相手の人を見た。
「殿下がこうおしゃってますが?」
そう聞くと、相手の人は首を振った。
「嘘だ!そいつがわざとぶつかってきたんだ!」
ただの子供の癇癪だな。
そう思って、俺はため息をついた。
「殿下、落ち着いて……」
「うるさい!お前もそいつもすぐに処刑してやる!」
そう叫ぶリオネスに相手の人はまた顔面蒼白になった。
俺はもう一度リオネスを押した。
「………ふざけるのも大概にしてください。たかがぶつかられたくらいで処刑ですか」
リオネスは動揺からか何も言えないでいる。
「あなたはご自分の立場を理解してますか?」
「ぼ、僕はこの国の皇子だ」
「そうです。あなたは俺たちよりも権力があります」
「じゃ、じゃあ…」
「権力があるあなたが『死ね』と言えば、俺たちは死ななきゃいけない。それがどんな理不尽でも。それがあなたにはどういう事か分かりますか?」
そう言うと、リオネスは黙ってしまう。
「権力のある者が、気軽に『死』を口に出さないでください。死ねば大切な人に二度と会えなくなるんです。『死』とはそういうものです。あなたの一言で、その人もその人の家族の運命も変えてしまうんです。それをよく考えてください」
そう言う俺に、リオネスからの反論は無かった。
俺は小さく息を吐いた。
「お騒がせしてしまって申し訳ありませんでした」
そう言って周りの人たちに頭を下げて、俺はホールを出た。
ホールを出ると、俺はしゃがみこんでしまった。
どうしよう、我慢出来なかったとは言え、一国の皇子にあんな……
俺は良いけど、伯爵様たちに迷惑が掛かったら。
「ディー、大丈夫ですか?」
そんな事を考えていると、シャロウネがやって来る。
「……シャーネ、すいません。俺……」
「大丈夫です。今日はもう馬車に戻って、お父様が来るのを待ちましょう」
そう言うシャロウネに、俺は頷いた。
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