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第56話 ∥

目を開けると真っ暗だった。 ……そうか俺、あの後寝ちゃったのか。 俺はベッドから降りると、グッと伸びをした。 時計を見ると中途半端な時間だった。 ちょっと遅くなったけど、日課をこなすか。 そう思って、俺は庭に出た。 俺は軽いランニングと、武術の形を通しでやることを日課にしている。 この日課をしないと何か気持ち悪い。 俺は庭に出ると、邸の周りを走る。 結構遅い時間だけど、こうして邸を見ると所々まだ灯りが着いてる。 皆遅くまで働いてるんだな。 俺も前は仕事で午前様なんてざらだったな。 そんな事を考えながら走っていて、丁度邸の裏手に差し掛かったとき、茂みからガサッと音がした。 ……何だ? 俺は足を止めて音がした茂みに意識を向ける。 しばらく茂みを見つめてみるけど何もない。 気のせいかと思ったけど、何となく気になった。 何も無ければそれでいい、そう思って俺は茂みを掻き分けた。 植木を掻き分けると、その奥に何かシルエットが見えた。 よく見ると、アランが踞っていた。 「アラン!?」 俺は慌ててアランに駆け寄る。 「アラン、アラン!どうしたんで……」 そう呼び掛けると、突然口を塞がれた。 「……少し、黙って…」 そう言うアランはとても苦しそうだ。 俺が小さく頷くと、口を塞いでた手が外れて、アランが力尽きたように倒れた。 「アラン、しっかりしてください」 そう言ってアランに触れると、ぬるっとした感触がした。 自分の手を見ると、黒い液体が付着している。 それは生温かくて、少し鉄の匂いがした。 ……これは、血? 「アラン、何処か怪我してるんですか?」 そう聞いてもアランは何も答えない。 ……暗くてよく見えない。 『ライト』 俺は光魔法を使って灯りを出した。 小さい光の玉が出て来て、ぼんやりと照らす。 光の玉に照らされた自分の手を見ると、今度は赤い。 ……やっぱり血だ。 俺は今度はアランの体を照らした。 俺は魔力が弱いから部分的にしか照らせないけど、アランが着ている服は今日街で見かけた気がしたアランと同じ物だった。 やっぱりあれはアランだったんだ。 俺は光の玉を動かしてアランの体を確認する。 そうすると、服の一部が赤黒く変色していた。

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