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第60話 ∥

(シリウスside) アランが諜報員として動いていることは、邸内でも一部の人間しか知らない。 もちろん、知ってる者も情報を他者に洩らす者なんていない。 にも関わらず、ディーはアランが諜報員だということを知っているようだった。 私が『話をしても良いか』と聞くと、ディーは筋肉痛で動かない体を起こそうとした。 私は慌ててディーに手を貸した。 ディーは座るだけでもしんどそうにしている。 「寝ていた方が良いんじゃないか?」 そう言うとディーは首を振る。 「大丈夫です。寝たまま話せる内容じゃないので」 そう言って私を見据えるディーの瞳に、一瞬ドキッとした。 ディーがたまにする瞳。 ディーが集中している時にすることがある、人を射ぬくような鋭い瞳。 「父様?」 そんな事を考えていると、ディーが覗き込んでくる。 「…ぁ…あぁ、すまない」 私は軽く咳払いして気を取り直した。 「では早速だが、アランの事はどこまで知っている?」 そう聞くと、ディーは微かに目を伏せた。 「……アランさんがスラム出身であること、グロウ家の諜報員だということ、今アランさんが何か追っていること」 ディーはそう、淡々と話す。 「何時から知っていたんだ?」 「シャーネと街に行った時に、街中でアランさんを見ました。普段とは違う格好で、人目を避けるように裏路地に入って行きました。執事であるアランさんが邸から離れることは余程の事があるか……」 またディーが私を見据える。 「アランさんの主である父様の命令で動いていると」 アランがスラム出身であることは隠していない。 しかし、そこからアランが諜報活動をしていることがバレることはないと思っていた。 「………街中でアランを見掛けただけでそこまで?」 街中でアランを見つけることも凄いが、たったそれだけの情報で的確に答えに辿り着けるものなのだろうか。 「アランさんが何かをしてると確信したのは昨日、怪我をしたアランさんを見つけた時です」 「それはどういう事だい?」 「最初はアランさんが街中に居ることが疑問でした。でも一瞬だったので、その時は気のせいだと思ったんです。でも昨日、怪我をしたアランさんを見付けて、街中で見た時と同じ服装だったので、あの時みたのはアランさんだと確信しました。それにあの怪我です、何も無いのは有り得ないかと」 そう言うディーに、私はため息をついた。 この子はどこまで凄いんだ。 人の往来が激しい街中でアランを見つける洞察力、アランの怪我を応急措置出来るほどの知識。 どれを取っても普通の9歳の子供とは掛け離れすぎている。 いや、大人ですら敵わないんじゃないかと思う。 つくづく、私は末恐ろしい子を我が子にしてしまったらしい。

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